
友人に誘われて参加。アーツマネジメントにはとても興味をもっています。
結論
アート・イン・ビジネスとの冠だが、アートには踏み込まない、長崎の夜間景観や長崎駅前の再開発の話であった。駅前開発にかかわる各サイドをまとめてトータルデザインの美しさをもとめることは重要。「新しい文化施設」にもこの考え方をぜひ取り入れてほしい
概要
日時: 2026年6月11日(木)19:00〜
会場: 十八親和ホール・長崎創楽堂(長崎大学文教キャンパス音楽棟1階)
講師: 高尾忠志氏
地域計画家・博士(工学)・技術士(建設部門)・長崎市景観専門監

感想
このセミナーに参加するタイミングで、長崎大学教育学部音楽棟にある「創楽堂」という小さなホールが、十八親和銀行のネーミングライツで「十八親和銀行ホール・長崎創楽堂」という名前になっていることを知りました。
音楽活動や演奏活動に興味がある私ですら初めて知ったのですから、長崎市民に浸透しているとはとうてい思えません。
令和7年12月9日(火)、国立大学法人長崎大学と株式会社十八親和銀行(以下「十八親和銀行」)は、文教キャンパスにある「十八親和ホール・長崎創楽堂」において、県内における芸術文化普及活動事業の共創を開始することについて記者会見を行いました。
十八親和銀行が本学の音楽ホール「長崎創楽堂」のネーミングライツを取得し、今後10年間にわたり、令和4年に終了した長崎創楽堂を活用した従前の芸術文化普及活動事業に「アート・イン・ビジネス」という新たな視点を持つ「経営者シリーズ」の開講を加え、事業をスタートするものです。
長崎大学HPより引用
十八親和銀行はこれまでも創楽堂を活用した芸術文化普及活動を行っていたのですね。全然知らなかった。広報不足ではないでしょうか?その活動というのに一度も参加したことないですね。どれくらいの実績を残したのでしょうか。

でも今後10年間もスポンサーとして芸術とビジネスの融合を模索していくというのですからよいことです。応援したく思います。
講義
講義は講師の自己紹介からスタートし、長崎市の景観専門監としての仕事が紹介されます。特に夜間の照明を使った景観の仕事をビフォーアフターの写真を提示してわかりやすく説明がなされました。ビフォーでは防犯灯の灯りが一番目立っていたのが、措置後は防犯灯は引っ込み美しく眼鏡橋や平和記念像が浮かび上がっています。
話は長崎駅前の再開発に向かいます。100年に1度といわれる大きな再開発事業ですが、国・県・市・JR九州の4者がそれぞれにやろうとしていた開発事業を、高尾氏の呼びかけで4者が話し合いトータルのデザインを成し遂げようとするお話です。
縦割り行政のもとで4者がばらばらに作業していたならきっと美しいものにならなかったでしょうから、すばらしい取り組みだと思います。
私は「アート・イン・ビジネス」の話題を聞きたくて参加したのですが、残念ながらそこまで話は及びませんでした。今回心に残ったことは、いろいろの立場の人たちが話し合ってトータルデザインでよきものを目指すということ。
新しい文化施設
旧市役所跡地に計画されている長崎市の「新しい文化施設」について上記のことを当てはめて考えてみると、市側、市民側、企業という登場人物が出てくるでしょうか。さらに市民に関しても、文化施設を使用する側として音楽、演劇などが考えられます。音楽一つにしてもクラシック・邦楽・ポピュラーミュージックなどさらに細かくなってくる。
例えばクラシック音楽と演劇を考えてみると、その音響システムには大きな差異があります。すなわち残響を多く残して響きを作ることを重要視するクラシック音楽に対し、演劇の音響は生の声が明瞭に聞こえる残響の少ない環境が求められる。二つの芸術の音響アプローチは対照的なのです。
この難しい問題に対して簡単な方法は文化施設を「多目的ホール」とすることです。長崎市のホールは全部これといってもいいのではないでしょうか。「市民会館文化ホール」「チトセピアホール」「メルカつきまちホール」「平和会館ホール」そして「ブリックホール」もしかりです。
ブリックホールに至っては床に赤いじゅうたんが敷き詰めてあって、音を吸収してしまう。こんな床の音楽ホールはありません。指揮者の井上道義氏がリハーサル中に「こんなじゅうたん全部はぎとってしまえ」と怒ったという話も残っています。

ゆえに新しい文化施設が「多目的ホール」化するのだけは避けねばなりません。
音楽ホールの響きを残しつつ演劇等他団体の供与につながる技術が開発されているのかは調べてみる必要があります。もしそれができるのであれば多くの問題は解決するかもしれません。
さっそくjemini先生に尋ねてみました。質問は「クラシック音楽ホールの響きを保ちつつ、演劇等でもホールを使用できるような音響の技術は開発されているか?」詳しい答えを返してくれました。すごいですね。
クラシック音楽ホールの豊かな響き(長い残響)を保ちつつ、セリフの明瞭度が求められる演劇(短い残響)にも対応するための音響技術は、現在非常に高度なレベルで開発・実用化されています。
これらは大きく「建築音響的なアプローチ(物理可変)」と「電気音響的なアプローチ(電子制御)」の2つに分けられ、現代の多目的ホールや劇場で広く導入されています。
1. 物理的に空間を変える「残響可変装置」
建物の構造や内装を物理的に動かし、音の反射と吸音のバランスをコントロールする技術です。
- 可動式音響反射板(反響板) クラシック演奏時には、舞台の周りを分厚い木製の「反射板」で囲み、楽器の音を客席へ効率よく飛ばします。演劇や舞台芸術の際には、この反射板を舞台上空や壁裏に電動で格納し、舞台裏の「吸音幕」を露出させることで、セリフが響きすぎて聞き取りにくくなるのを防ぎます。
- 物理的な吸音・反射の切り替え機構 客席の側壁や天井裏に、リモコン一つで駆動する仕掛けが組み込まれています。
- 昇降・ロール式吸音幕: 壁沿いに厚手のカーテン(吸音幕)を降ろすことで、不要な反響をダイレクトに吸収します。
- 回転・スライド式可変パネル: パネルの表が「音を跳ね返す反射面」、裏が「音を吸い込む吸音面(グラスウールなど)」になっており、これを回転・開閉させることで、ホールの残響時間を(例えば2.0秒から1.3秒へと)大幅に変化させます。
2. 空間の響きをデジタルで創る「アクティブ音場支援システム」
近年、目覚ましい進化を遂げているのが、「あえて元の部屋を演劇向け(残響が短い状態)に設計しておき、クラシック演奏時のみデジタル技術で極上の響きを付け足す」という逆転の発想による電子制御技術です。
代表的なシステムとして、ヤマハの「AFC Enhance(Active Field Control)」などが世界中のホールで導入されています。
- 仕組み: 舞台や客席に設置した高感度マイクで生楽器の音を拾い、高度なデジタルシグナルプロセッサ(DSP)で「そのホールが理想的なクラシックホールだった場合の響き(初期反射音や晩期残響)」を瞬時に計算。客席の壁や天井に配置された数十台〜数百台の目立たないスピーカーから、まるで建築物から跳ね返ってきたかのような自然な音として出力します。
- メリット: スピーカーから音が出ているとは全く気付かないほど自然で、ボタン一つで「大聖堂のような響き」から「劇場の響き」まで一瞬で切り替えられます。また、物理的な可動壁を作るよりも建築コストやデッドスペースを抑えられるため、現代のホール設計において主流になりつつあります。
3. その他の補助技術
- 客席椅子の音響設計 人が座っているとき(服が音を吸う)と、空席のときでホールの響きが変わらないよう、椅子の座面裏や背もたれに絶妙な吸音・反射加工を施す技術も一般的です。リハーサル(空席)と本番(満席)で、音の聴こえ方が変わるのを防ぎます。
このように、現在の音響技術は「重厚な機械式可変構造」と「繊細なデジタル音響制御」のハイブリッドによって、クラシックの生演奏の感動と、演劇の息遣いやセリフの聞き取りやすさを、一つの同じ空間で見事に両立させています。

写真はヤマハの「AFC Enhance(Active Field Control)」を導入した滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール 中ホール(804席)
ここで提案されている方法では、よりよいクラシック音楽の音を求めたい私としては「重厚な機械式可変構造」を求めたいところですが、多くの費用が掛かりそうです。市長の逡巡のために1年まるまる着工が伸びた今では、建築資材の高騰のために規模の縮小などと言い始めています。お金がないのです。
可能な限り自然な響きを保ちつつ、デジタルの力も借りる「ハイブリット」方式もやむなしと考えます。
高尾氏がやり遂げた複数サイドの関係者が協力して作り上げる駅前開発から学ぶことは、新しい文化施設の建設に際し、市、市民、企業にこのような音響の識者も加わって力を合わせて多くの人が満足できる施設にできるかということです。今後の状況を注視していきたいと思います。
質疑
講義の後に質疑の時間がありましたので、「新しい文化施設」の現状はどうなのかと高尾氏に尋ねてみました。すると直接の関係者ではないので詳しい情報はもっていないのだがと前置きされて、氏の知っていることを話してくれました。
「文化ホールはもうからないので(収入と維持費用がバランスしないということでしょう:著者推測)、PPP(官民連携)方式を志向し、現在手を挙げる企業を求めている」とのこと。
「PPPの候補企業はいるのか」というさらなる質問には「あるらしい」という答えでした。
希望のもてる回答でしたが、一方「PPPが始まった当初は希望する企業が多かったが、どこもやりはじめて現在は少なくなっている」という不安材料ともなる話もされていました。
報道で旧市役所跡地に建築される新しい文化施設の余剰地に「NHK長崎放送局」をつくる話が出ました。市長の提案でありNHK側との交渉がすでにおこなわれたとのことです。市長はNHKをPPPの企業にと狙っているのでしょうか?
もしそうであればNHKがホールの運営にも関わり、安定的な財政状況の保持とともにNHKのもつ文化的な財産や情報がホールの活性化にも生かされるかもしれません。これも注視すべきポイントです。
いったいどうなるのか先行き見通せない新しい文化施設ですが、高尾氏のようなコーディネーターが登場し、各サイドの意見をうまく取り入れてよりよい「新しい文化施設」が完成することを切に望みます。
市長は私に明言しました。「作るからにはいいものを作りましょう」有言実行に期待します。

アートにまでは踏み込まない講義でしたが、高尾氏的な人物が重要なことはとても参考になりました。

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