
名手三人の個性とブレンドはいかに
結論
毛利文香のシャコンヌに出会えた幸せ。「大公」が好きでないわけがわかった。
概要
本年のキャッチフレーズは「その先へー音が次代をヒラクとき」です。服部百音氏、牛田智大氏、アレクサンダー・ガジェヴ氏、山下愛陽氏など、国内外で活躍する若手演奏家が出演します。次代を担う演奏家たちの瑞々しい鮮烈な響きが、音楽祭に新たな息吹をもたらし、未来への扉を開いてくれることでしょう。
プログラムより引用
感想
ベートーベン/ワルトシュタイン
前半は3人のソロでの演奏。トップバッターはピアノのアレクサンダー・ガジェヴの「ワルトシュタイン」です。精神集中した後ガジェヴは快適なテンポで曲をスタート。低音の後の羽飾りのような高音のなんと美しいことでしょうか。ああピアノの音ってこんなに美しかったのか。
2楽章からアタッカでつながった3楽章は印象的な右手の旋律が何度も繰り返されます。それを左手のアルペジオなどが装飾していくのですが、頂点でのハープのようにスムーズでなおかつ重厚感のある演奏に感激しました。
武満徹/Air
ピアノが片付けられ、木の台が設定され、それに背もたれの付いたピアノ椅子、さらにタブレットとフットコントローラーが置かれました。チェロの上野通明の演奏です。ガジェヴが使ったピアノ椅子は背もたれのないスツールでしたが、それを流用することはありませんでした。
なぜならば上野氏は背もたれに背中をもたせかけて演奏するからです。椅子の前の方に座って背もたれを使わないチェリストも多いと思いますが、上野氏は違います。背もたれにどっしりと体重をかける演奏スタイルは多少老けて見えますが、それが彼のスタイルだから仕方ありません。
ガジェヴが「ワルトシュタイン」毛利文香が「シャコンヌ」と人口に膾炙した作品を取り上げる中で、武満を取り上げたのはとても対比的でよかったと思います。

『エア』(Air)は、武満徹の遺作となったフルート独奏曲。1995年に作曲された。タイトルは「空気」と「歌」の掛詞となっている[1]。
武満の友人であったフルート奏者オーレル・ニコレの70歳記念コンサートのために作曲され、ニコレに献呈された。初演は1996年1月28日、バーゼルにて、植村泰一による。
初演から約1か月後の2月20日に武満が死去し、2月29日に行われた告別式における小泉浩の演奏が日本初演となった。
wikiより引用
ニコレのファースト・ネームの頭文字と結びついたイ音(A)を軸に、フルートの息の長い旋律が大気の中を揺蕩うかのように展開していく。本日は遺族の特別な許可を得て、武満の白鳥の歌をチェロ独奏でお聴きいただこう。
プログラムより
とても特別な演奏であることがわかります。武満らしい幽玄とした旋律がチェロ独奏で展開していきます。特徴的な低い音から高音への跳躍が何度も出てきて、フルートの曲といわれればなるほどと納得できます。曲を自分の内に完全に取り込んだ余裕の演奏だっと思います。
バッハ/シャコンヌ
ソロの最後はバイオリンの毛利文香の登場です。すてきなロングのドレス。細身の彼女にとても似合っています。
毛利文香は高校生の時に桐朋学園大学ソリスト・ディプロマ・コースで学び、大学は慶応義塾大文学部でドイツ文学を学んだちょっと変わり種です。多くの国際コンクールで入賞をはたし、ケルン音楽大学へ留学して研鑽を積んでいます。貸与楽器はストラディヴァリ「サセルノ」
そのバッハ演奏には一部の曇りも迷いもないのが強く感じられました。核心に満ちている。シャコンヌという20分を超える大曲を美しい音で堂々と演奏し、私は魅了されました。一気に毛利のファンとなりました。すばらしい演奏家との出会いに感謝します。

ベートーベン/ピアノ三重奏曲「大公」
プログラムの解説には「ピアノ、ヴァイオリン、チェロが緊密で対等な対話を繰り広げる」とありますが、聴いていると圧倒的にピアノが主役であると感じました。
チェロは大きな音でごりごり弾いていましたが、毛利のバイオリンはかなり引いた小さな音でのアプローチと感じました。弦楽器が旋律を歌う頻度が高いロマン派以降のピアノ三重奏に比べて、この曲は二つの弦楽器はピアノの装飾的なつくりだと感じました。
毛利はあえて主張せず、外国からのゲストであるガジェヴに主をまかせたとも考えられます。上野はその中間にいたようでした。
私がこの曲があまり好きでないのは、ピアノが主役で弦楽器は脇役的であることに因があるのだと気が付きました。


毛利のシャコンヌに出合えたことは実に僥倖でした。また好きなバイオリニストが一人増えました。

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