
今月のセントラル劇場は毎週のように見たい作品が続きます。第1弾がこれ
結論
世界中を暴力が国家の名のもとに駆け回っている。徹底的に非暴力なTJの姿に理想を見る。
概要・あらすじ
市井の民を見つめ、彼らの生活と闘争を描き続けてきたイギリスの巨匠、ケン・ローチ監督。彼が自ら「最後の作品」と語っているのが第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された『オールド・オーク』だ。
『わたしは、ダニエル・ブレイク』『家族を想うとき』に続く「イギリス北東部3部作」の最終章となる本作の舞台は、とある炭鉱の町で最後に残ったパブとして親しまれていた「オールド・オーク」。人々が集い、安らぎを見出す場所だったはずのパブは、シリア難民の受け入れにより、諍いの場に変貌してしまう。オーナーのTJはシリアから来た女性ヤラと出会い、友情を育む中で、困窮する町の人々とシリア難民のための食堂を開こうとするが…。
数々の名作を共に世に送り出してきた脚本家ポール・ラヴァティとのタッグによる、社会と人々への温かくもリアリズム溢れる眼差しが映し出すドラマは、深い感動を呼び、世界中で激賞されている。現実社会にも起こっている分断や争いと、違いを受け入れながら共存していくことへの希望についての考察を我々に促すだろう。公式HPより引用
イギリス北東部、とある炭鉱の町で唯一のパブ、「オールド・オーク」。活気溢れる時代から30年の時を経て、今は厳しい状況に陥っているが、町に住む人々にとっては最後の砦となる止まり木のような存在だ。店主のTJ・バランタインは、試行錯誤しながらなんとかパブを維持しているが、町がシリア難民を受け入れ始めたことで、パブは居場所を争う諍いの場になってしまう。先行きを危ぶむTJだったが、カメラを持ったシリアの女性ヤラと出会い、思いがけない友情を育むことになる。果たして、彼らは、互いを理解する方法を見つけられるのだろうかー?
同上
感想
モノクロスチル写真にセリフが重なる冒頭。シリア難民であるヤラが撮った写真であろう。モノクロ写真は本作の重要なキーアイテムとなっています。
港町のパブ「オールドオーク」の奥の部屋にはTJのおじきが撮影したダラムの町の悲喜こもごもの白黒スチル写真が並んでいます。スチル写真がTJとヤラの絆を深めるものとなります。
またヤラが撮影したダラムの人々のスチル写真は、突然やってきた難民とダラムの住民の絆も結び付けることになります。白黒スチル写真とはなんと力のあるものでしょうか。

やがて町の女性たちはヤラに写真を撮ってくれるように頼むようになり、撮りためたスチル写真をスライドで上映会をするまでになります。まさに二つの民族を写真が結び付けた瞬間であり感動的でした。上映中にシリアのギターのような民族楽器の生演奏が行われているのも素敵です。互いの文化を受け入れることができるという主張のように感じました。
オールドオークの奥の部屋で「こども食堂」を行うことに踏み出したTJ。おいしいものを食べる人々の笑顔に諦念に満ちていたTJの心も癒されていくようです。人を救うことは実は自分を救うことなのですね。
しかしTJにとって希望のような「こども食堂」は、幼馴染の裏切りによって破綻させられてしまいます。その事実を知ったTJの悲しみは想像できないほどです。TJは幼馴染に「俺は知っているからな」と宣言しに行きます。TJは決して暴力に訴えることはない。1度だけ、妻子を侮辱された時を除いて。
暴力に満ち満ちたこの世界で、TJのこの非暴力のふるまいは学ぶべきものがあります。
TJは周りの支援に支えられ、再び「こども食堂」を再開・・・するなんてことにはなりません。これぞリアリズム。ヤラの家族の希望でもあった父親の死が伝えられヤラの家族も失意のどん底に沈みます。これもリアル。
しかし町中の人々がヤラの家に弔問に訪れ、花を手向けていく。静かな町の人々の行為が大きな感動を生むクライマックスとなっています。TJを裏切った幼馴染も現れ、さすがに自分では花を手向けることができず、娘にもっていかせる。切れかけていた絆が糸1本つながっていたことにああよかったと感じます。

エンディングはダラムの町の伝統である、イギリスの実在の労働組合の祭典「ダラム・マイナーズ・ガラ(Durham Miners’ Gala)」のパレード。今も続く、炭鉱夫たちの誇りの祭りです。ヤラとTJたちが掲げる旗には英語とシリア語で「慈善ではなく連帯を」と書かれています。
世界中で人々の分断が進む現在にとても響く言葉だと思います。
海に囲まれ、ほぼ同一の言語を話す純潔種に近い日本人は、別の人種と連帯が組めるだろうか。単純に排斥したりヘイトするのでなく、ともに連帯できるかを注意深く見て行動したいと思いました。

静かな非暴力の中に考えさせられる問題を提示してくれた稀有の作品だと思います。ケン・ローチ監督にはまだまだ撮ってもらいたいと願うのは私だけではないはず。超おススメ

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