山田洋次監督作品「男はつらいよ 幸せの青い鳥」を観ました。本作は1986年末から公開された作品でシリーズ第37作です。
静かで穏やかなストーリー展開の底に流れるのは「幸せ」とは何かという問いです。
あらすじ
九州に降り立った寅次郎。そこで芝居小屋でかつて贔屓にしていた旅芸人の行方を尋ねると、亡くなったことを知らされる。その故人の娘を見つけて声を掛けると、彼女も寅次郎に気づく。親を失って孤独になってしまった彼女に同情した寅次郎は、精一杯励まして元気づける。そして去り際に、東京のとらやに来るよう告げるのだった。
ネットより引用
福岡県飯塚市の「嘉穂劇場」が出てきます。「飯塚音楽祭」という垂れ幕が見えます。著名な音楽祭がこの古い場所でも行われていたことが分かりおもしろかったです。
旅芸人の一座は過去作で2作品で登場します。そのときは子役だった娘が成長したのが今作のマドンナ美保(志穂美悦子)になります。
志保美悦子
今は亡き千葉真一が主催したJAC(ジャパンアクションクラブ)出身のアクションスターですね。精悍な表情とよく通るいい声の持ち主で、本作の初登場の場面は、オフロードバイクで颯爽と現れます。ヘルメットを取った表情がまさに精悍です。
旅館のコンパニオンとして、いい声も聞かせてくれます。そのシーンでは、お客に抱きつかれて転倒するというアクションシーンも出て、彼女ならではと思いました。
脇役としての寅
マドンナ「志穂美悦子」と彼女と恋に落ちる青年「長渕剛」の二人が全面に出てくるために、本作では寅次郎の出番が少なく感じます。
寅自身がマドンナに恋をしてふられるという王道のストーリーから外れて、脇役に回るのが本作の特徴です。ファンとしてはちょっと寂しいですね。
旅芸人一座の頃から美保を知っている寅にとっては、美保は娘みたいなものだったのでしょうか。自ら「あの子に対して。これっぽっちもやましい気持ちはないよ」と宣言して、彼女の「婿捜し」まで始めます。
お約束の寅の妄想は、その婿を寿司屋の職人として、二人に小さな店を持たせる話として出てきます。赤ん坊が生まれ、寅が口ずさむ歌が「♪こんにちは赤ちゃん わたしがママよ」で笑わせてくれます。
長渕剛
画家志望だが、なかなか芽が出ない青年を演じるのが長渕剛。チンピラを蹴散らしたり、展覧会落選にお落ち込んだりと多彩な表情を見せる「健吾」を軽妙に演じています。こんな芸術家いるのかなあ?と思う面もありますが、熱演といえるでしょう。
得意のブルースハープを吹くシーンでは、ミュージシャンの面も覗かせて、さらに多彩で複雑な人物造形になります。
幸せとは
物語の冒頭から、タコ社長の印刷工場の青年職工が、父親のクリーニング店を継ぐために、国元へ戻るというストーリーが挿入されます。父親が上京してきて話し合い、ついには涙の別れをしながら国に帰っていきます。
ほとんど顔も見えないこの青年のサイドストーリーは何なのでしょうか?
青年は夢をもって上京してきたはずです。それを半ばにして国に戻って親の家業を継ぐことは、彼にとって幸せにつながるのだろうか。とても気になります。むろん、その先は観客の想像にゆだねられますが、とらやのみんなやタコ社長らは、「いい嫁さんをもらって、きっと幸せになる」と信じています。
同時進行する、「美保の上京物語」「健吾の物語」「美保と健吾の恋物語」「美保の幸せを願って奔走する寅の物語」「もてもての満男」のそれらが、「幸せって何」というキーワードで考えると不思議に立体的に見えてくるように思えます。
何気ないサイドストーリーをおいたことで、私たちは「幸せって何」と考えずにはいられません。山田洋次脚本の深さ凄さを感じるところです。
幸せの青い鳥
プロローグの寅の夢のシーンは、レギュラー陣が寅と一緒に幸せの青い鳥をさがす話です。へこたれそうになる「さくら」を励まし、ついに青い鳥をみつけ、天国のような場所に至ります。
夢の中で青い鳥を捕まえた寅が、この映画では「幸せ」を不幸な娘に手渡すために、奔走するストーリーです。
エンディングまでそのテーマは続き、箱根芦ノ湖で「鳥の笛」を売っている寅は、近寄ってきた少女に「その笛を吹いたあんたは、きっと幸せになるよ」と話します。とても喜び「このおじさん、ユニーク」という今ではあまり聞かなくなった「ユニーク」を連発します。
このかわいらしい少女は、有森也実です。
山田洋次監督が前年に撮影していた「キネマの天地」のヒロインですね。笑顔が愛くるしく、声も人なつっこいかわいさがあります。久し振りに観ました。
人が自らの幸せを希求するのは当然のことですが、自分のことはおいておいて人の幸せを願い奔走する寅の姿に憧れますね。人のための頑張れば自分もきっと幸せになるのでしょうね。わかちゃいるけど、なかなかできない自分が悔しいです。
幸せの青い鳥を探すって、人のために頑張ることかなとも感じてしまいました。
寅の活躍が少し少ない本作ですが、静かな物語進行の中に考えさせられるしっかりしたテーマがあると思いました。寅の出番が少ないのは、渥美清が体調不良だったこともあるそうです。幸せの青い鳥を探しているあなた、ぜひ御覧ください。オススメです。
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