
若きチェリストとピアニストによるロシア物。はたして
結論
大好きな曲を1曲増やしてくれた若き二人の演奏に感謝。毎年続けて欲しいすばらしきリサイタル
概要
京都市立芸大でともに学んだチェリスト村田静菜とピアニスト井原千璃が3年前から出身地の長崎と北九州でデュオコンサートを行っています。3回目の今回は井原がラフマニノフを勉強したいということで、ロシア物を演奏。「蒼き響き」と題して、暑い夏にロシアの風を吹かせました。
グループ名の「ß」はドイツ語のSSを現し、二人の名がどちらもSであることからきています。
感想
カプースチン/ニアリーワルツ(1999)
2020年に没したカプースチンの作品。初めて聞く作曲家です。曲は陽気なジャズという感じ。作曲家を調べてみると、ソ連邦時代のウクライナ・ドネツク州生まれです。話題の地域ですね。戦争簡単には終わらない気がします。
カプスーチンはクラシックのレッスンを始めたが、即興の面に才能を見いだされ、ジャズとクラシックの融合的曲を多数作曲しています。このワルツもとても聴きやすいオープニングにふさわしい曲でした。
怪僧ラスプーチンと間違えそう。
ラフマニノフ/ヴォカリーズ(1915)
いわずと知れた名歌曲。今回歌の部分をチェロが担当。ピアノの伴奏が和音と対旋律を延々と行うのが印象的。チェロも伸びやかに歌い、奏者が気に入っているのが感じられます。
プロコフィエフ/無伴奏チェロソナタ(1952)
ここからそれぞれソロで1曲演奏。まずはチェロ。プロコフィエフは大好きな作曲家ですが、この曲はなかなか難解な感じがしました。全4楽章で構想されましたが、1楽章アンダンテの旋律部分を作曲したところで、プロコフィエフは没します。
第2主題は友人のロストロポーヴィッチが書いたぶぶんもあるそうです。その後1972年にブロクによって演奏可能な単一楽章の曲として完成。村田の演奏はさらなる掘り下げを望みたい。

ラフマニノフ/チェロソナタ(1901)
15分の休憩後はいよいよメインのラフマニノフのチェロソナタです。名曲として特にチェロ奏者には人気の曲と認識しています。しかし私はこれまでよい演奏に出会えなかったせいか、それほどまで好きという曲ではありませんでした。
しかしこの若い二人の演奏を聴いた後は大きく変わりました。
井原の解説では、この曲は神経衰弱で苦しんでいたラフマニノフが、催眠療法のダーリ博士の治療で回復し、第2ピアノ協奏曲を完成させた1901年と同年の作曲作品。自信を取り戻したラフマニノフの才能が開花した時期の作品ということです。
またこの曲のピアノは単なる伴奏でなく、シンフォニックでチェロと同等に位置されていると井原。ゆえに彼女はこの曲をやりたかったわけですね。ラフマニノフも初版の楽譜には「ピアノとチェロのためのソナタ」と題しています。ピアノが先なんですね。
4つの楽章の35分にもなる大作です。村田と井原の演奏で特に印象深かったのは2楽章のアレグロ・スケルツァンドです。美しい旋律がいくつも出てくる1楽章とは一変、リズムが前に出てきます。ピアノとチェロが掛け合いながらリズムを打ち出してくる。聴く者に深く刺さってくる。良い意味でです。
中間部は再びチェロの甘い旋律が酔わせてくれます。この大きな対比が人の心を揺さぶるのですね。ラフマニノフはそれをよくわかっていた人であり、難解な現代音楽の流れを選ばずにロマンあふれる旋律中心の音楽を残してくれました。私たちにとっては至福であります。
第3楽章はそのロマンな甘美な旋律でうっとりさせてくれます。チェロがのびのびと歌い演奏者にも幸福をもたらす音楽であると理解します。第2ピアノ協奏曲の2楽章、第2シンフォニーの3楽章、パガニーニラプソディの第18変奏など、メロディーメイカーラフマニノフの名旋律の数々が思い浮かびます。
終楽章はト長調で、明るく弦楽器にとっては一番弾きやすい調(シャープ1つ)。1・2楽章のどこか迷いがあるような憂いのある世界を一気に払拭するような楽章となっています。チェロもピアノも颯爽と音楽を紡いでいきます。デュオとしての二人の仲の良さが溢れてくるようです。
ラストのコーダは、華々しく終わると見せかけて一捻りあるところがこれもラフマニノフらしさです。今回の演奏を通じて、この曲の人気のほどがよくわかりました。私も大好きになってしまいました。この変化をくれた二人の演奏に感謝です。

アンコールはチェロが有名な旋律を歌い出します。そう黒澤明の出るウイスキーのCMでかつて「きれいな曲だな」と多くの人を魅了した「パガニーニの主題によるラプソディ(狂詩曲)」第18変奏です。ピアノが旋律を歌い、チェロが伴奏に回る部分もチームワーク良く美しく歩んでいきます。いいねえ!

心の通じ合う音楽仲間がいるって本当に幸せなことと思います。私にも何人もいます。大切にしたいですね。長崎・北九州で毎年開催される二都物語。ずっと続いて欲しいです。応援してます。
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