
月曜12:10の回。5人くらいか?セントラル劇場最前列中央リクライニングで没入する。
結論
77分の短尺の中に緊迫の会話劇が走り抜ける。多くの考える要素も提供してくれる問題作
概要・あらすじ
監督・脚本を手掛け、まさに一夜で無名のクリエイターから、今最も注目される映像作家へと転身を遂げたのは、ベネズエラ出身のアレハンドロ・ロハスとフアン・セバスチャン・バスケス。ロハス監督自身が故郷のベネズエラからスペインに移住した際に、実際に体験したことからインスピレーションを受けて本作を生み出した。第二次トランプ政権下のアメリカで、移民の強制送還や不当な逮捕が日々報道されている昨今。似たような事件が世界各国を揺るがしていて、日本人にとっても決して遠い国の話ではない。これは、“あなた”にいつでも起こりうる話。まさに危機感を持って観るべき、リアリティMAXの話題作!
公式サイトより引用
移住のために、バルセロナからNYへと降り立った、ディエゴとエレナ。エレナがグリーンカードの抽選で移民ビザに当選、事実婚のパートナーであるディエゴと共に、憧れの新天地で幸せな暮らしを夢見ていた。ところが入国審査で状況は一転。パスポートを確認した職員になぜか別室へと連れて行かれる。「入国の目的は?」密室ではじまる問答無用の尋問。やがて、ある質問をきっかけにエレナはディエゴに疑念を抱き始める──。
同上
感想
タクシーのトランクに荷物を積み、後方席に乗り込む夫婦。これからの幸せな未来を夢見てか、2人は明るい雰囲気を放っています。夫はパスポートを忘れたかもと。妻はタクシーを止めさせる。見つかって再び空港に向かう。この夫大丈夫か?とかすかな不安を感じます。

しかしバルセロナの空港から無事飛び立つ飛行機。天気は晴れて美しいスペインの青い空。希望に満ちあふれたオープニングです。
ニューヨークに降下に入る際に夫はトイレへ。トイレ内では入管で話すセリフを練習します。緊張感が彼の中で高まってきている。失敗を強く恐れる気持ちがあるのでしょうか。
ニューヨークの空港に到着しても、妻の落ち着きに比して夫はナーバスです。荷物を手伝おうかという同じ飛行機に乗ってきたビジネスマンの提案をむげに断ってしまいます。
本作は監督の実体験をもとに作られています。監督はベネズエラ出身。ベネスエラは南米で最も治安が悪い国になっており、強盗・銃犯罪が頻発しています。その原因は政治・経済の混乱、貧困の拡大、治安当局の機能不全と犯罪への関与、そして麻薬組織の活動のためです。
以前エルシステマという公的融資による子どもたちへの音楽教育のすばらしい成果のドキュメンタリー映画を観たことがあります。音楽の力で子どもたちが輝く瞬間はとても感動的でした。しかし映画の終わりの方で政情の不安で融資が行き詰まり活動に危機が迫ります。この国はなんて不安定なんだと嘆いたことが思い出されます。

映画の主人公の夫はベネスエラ出身でパリに渡り、そこで米国のグリーンカード取得を目標としている。映画の中で彼は「もう自分には戻る故郷はない」と語ります。もうベネズエラには戻れないということです。帰る故郷がないとはなんという不幸でしょうか。これは日本人には肌感覚で全くわからない思いではないでしょうか。日本に生まれた幸運を感じます。
生きていくためにどんな方法を使っても米国への移民を実現したい彼の気持ちがよくわかります。映画の中で、入管職員に尋問されていく中で、妻は夫の自分への愛情へ疑いを深めていくのですが、フランスという故郷をもつ妻と戻る故郷の無い夫の立ち位置の大きな違いが浮かび上がってきます。
入管の職員がこれほどまでにプライベートに踏み込んで尋問するというのは本当か?と思ってしまいますが、米国に移り住もうという人々にこの夫婦と同様の状況の人々がたくさんいるという現実も感じさせます。移民の国である米国が移民を受け入れることで潰れてしまう可能性が現実化しているのではないでしょうか。
ゆえにトランプの強硬な移民政策は米国を守るための一つの方法なのかもしれません。トランプを単純に批判するわけにはいかないと思います。トランプは国を守るための強力なカンフル剤を使っているのかもしれないのです。
日本に目を向けてみれば、少子高齢化の進む中で、労働力として外国人を多く入れようという方向があります。野放図な外国人の受け入れは、現在のヨーロッパの状況を後追いするだけであるという意見もあります。現在の日本人の労働力は本当に不足しているのでしょうか?確かに日本人の賃金は高くつくかもしれませんが、潜在的に労働力はないのかを検証せねばならないでしょう。
働ける日本人に働いてもらう。そして日本人が豊かになっていく。そんな未来は好ましいと思うのです。外国人の排除ではありません。日本のルールを守って、頑張って働いてくれる外国人には来ていただいていいでしょう。互いに気持ちよく共生できる外国人なら歓迎すべきです。
ただ企業の利益だけを考えて賃金が安いからどんどん受け入れるという考え方には違和感を感じます。

さて、映画は入国審査の過程で夫婦の信頼関係が崩壊してしまう様を描きながら、あっと驚く結末で幕を閉じます。最後の決断はおまかせしますよという、米国の民主主義とも取れるしここまで追い詰めて放り投げる米国の残酷さにも取れる。
77分という短尺の中で、冒頭とエンドタイトルのロックサウンド以外ほとんど劇伴もないシンプルさの中で緊迫の会話劇を成立させた手腕に拍手です。

レンタルや配信で気軽に観てみて。きっと満足できます。オススメ!
コメント