400ページの長篇ですが、一気に読ませる力があります。
結論
キャラの立った登場人物たち。目に浮かぶようなアクションシーン。ワールドワイドな世界観。スパイ小説の新しいシリーズの誕生です。
概要・あらすじ
両親の死の真相を探るため、引きこもり生活を脱し警察官を志した19歳の沖野修也。
警察学校在学中、ある能力を使って二件の未解決事件を解決に導いたが、推理遊び扱いされ組織からは嫌悪の目を向けられることになってしまう。
そうした人々の目は皆、暗がりの中で身構える猫のように赤く光って見える。それこそが、沖野の持つ「特質」だった。
ある日、単独行動の挙句、公安の捜査を邪魔したことで、沖野は副所長室に呼び出され聞きなれない部署への異動を命じられる。
「内閣府国際平和協力本部事務局分室 国際交流課二係」。
そこは人知れず、諜報、防諜を行う、スパイ組織だった--。
日本を守る暗闘に巻き込まれた沖野は、闇に光る赤い目の数々と対峙していくことになるのだが……。スパイ小説のシンギュラリティとなる記念碑的作品、ついに刊行。
googlebooksより引用
長浦 京
1967年埼玉県生まれ。法政大学経営学部卒業後、出版社勤務を経て、放送作家に。その後、闘病生活を送り、退院後に初めて書き上げた『赤刃』で2011年に第6回小説現代長編新人賞、2017年『リボルバー・リリー』で第19回大藪春彦賞を受賞する。2019年『マーダーズ』で第73回日本推理作家協会賞候補、第2回細谷正充賞を受賞。2021年『アンダードッグス』では第164回直木賞候補、第74回日本推理作家協会賞候補となる。他の作品に『アキレウスの背中』がある。
ネットより引用
感想
元引きこもりの19才の青年が主人公。青白い顔、細い体を想像させ、たっぷり脆弱さをまとった彼が、特殊能力と知力を発揮して活躍するその微妙なバランスがおもしろいと思いました。
彼を取り巻く登場人物もよくキャラ立てされていていいですね。特に後半大きく主人公に対峙してくる神津は魅力的。外見の美しさと、両性具有の気持ち悪さ。小説ゆえ神津の姿はそれぞれの読者が各自の理想型を想像でつくりあげていきます。これは映像化して欲しくないような、いややっぱり見てみたいような揺れてしまいます。
主人公沖野とバディを組む、変幻自在の容姿をもつ水瀬響子。読者の頭で作られる水瀬の容姿はとんでもなく美しいものでしょう。彼女は当初沖野に対し先輩としてクールに接していますが、徐々に情が厚く絡んできます。
これは彼女が苦悩を内包して生きていることを示唆していて、副主人公といえる存在として描かれます。私は飽くまでクールな水瀬の方が好きですけれど。
その他、司令塔として通信上でしか登場しない女性課員、上司の課長や部長らもそれぞれにキャラが立っています。
ヴィランとしては、人間を完全に洗脳するマインドハンターの外人、男性だが女性の姿でいるというのも独特のキャラで印象的です。
クローン技術を使った、内臓移植のために育てられた囊胞は生理的に気持ちが悪いものですが、あり得るような話。この囊胞は一体人間なのかそうではないのか?倫理的にぐっと悩まされます。
緊迫感溢れるアクションシーンも満載で、脳内で次々に映像が浮かび上がります。圧巻の筆力です。
これはもう続編を希望しない人はいないでしょうね。読み出したらページが止まりませんよ。超オススメ!ぜひお読みください。
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