NHK-BSのお気に入り番組「クラシック倶楽部」でイッサーリスとコニー・シーの演奏を聴きました。音楽を完全に自分のものにしている演奏であり、これまで聴いたチェロ・ソナタと一線を画すような強烈な印象を受けました。
チェロ・ソナタト短調作品19
1901年に作曲されたチェロソナタ。ラフマニノフは本作においてピアノは単なる伴奏ではなく、チェロとピアノが対等な関係にあると考えていた。このため、初版は『ピアノとチェロのためのソナタ』と題されている。本作は、ラフマニノフが完成させた最後の大規模な室内楽曲となった。
wikiより
全4楽章、35分強の大作です。第2ピアノ協奏曲の後に書かれたので、苦しい時期を乗り越えた後の作品ですね。
感想
イッサーリスはどの演奏動画を見ても、同じ衣装を着ていますね。黒のジャケットに黒のTシャツです。Tシャツが自由な雰囲気を醸し出しています。
楽譜は置いてはいるものの、それを見て演奏するような感じは無く、多くはホールの後方の天井あたりを見て演奏しているように見えます。楽譜は完全に頭に入っているのでしょう。
今回のラフマニノフで目を引いたのが、この楽譜です。ぼろぼろなんです。特に1ページ目はひどい。これは何を意味しているのでしょうか。
一つは相当にこの曲を弾きこんだ結果ということ。何度もめくったための楽譜の傷みが考えられます。楽譜が一瞬アップになったのですが、意外に書き込みは無かった様に見えました。プロって書き込まないのでしょうか?
以前ジャクリーヌ・デュ・プレの動画を見たときは、びっしり指番号が書き込まれていた記憶がありますので、プロは書き込まないことはないと思いますが。
さて、ぼろぼろの楽譜の原因として考えられるもう一つは、師匠からの引き継ぎ品で、経年劣化のためではということ。10歳からロンドンの国際チェロセンターでジェーン・コーワンに師事しているので、この先生からの大事な遺産なのかも知れませんね。すべて妄想です。
とにかく、このぼろぼろの楽譜はイッサーリスのこの曲への思いを象徴するように感じられました。大事にしてきた曲なのでしょう。
さて、その演奏はまさに精緻で、ことの弱音での歌わせ方、その音色の柔らかさは特筆すべきものです。この曲の学生へのレッスン動画もyoutubeで見ましたが、実に細かいニュアンスや音色にこだわっているのが分かりました。
対して、ガット弦のせいか、大きな音量や金属弦の「ガリッ」という迫力はありません。金属弦の演奏と聞き比べるとおもしろいと思います。
このぼろぼろの楽譜で、完全に自分のものとしたこのラフマニノフの作品を、自由に演奏しているのがとても印象的でした。ことに、ガット弦の音色の柔らかさはくせになる麻薬的なものです。生で聴いたらとんでもないことでしょう。
スティーブン・イッサーリス
イギリス生まれ。ベルリン・フィルやゲヴァントハウス管、ロサンジェルス・フィルなどと共演し、ザルツブルク音楽祭やウィグモアホールなどの主要音楽祭やホールに出演、現代最高のチェリストの一人として比類のない多彩な活動を展開している。HIP(歴史的な奏法)にも強い関心を寄せ、古楽オーケストラにも頻繁に客演。チェンバロやフォルテピアノ奏者らとの共演によるリサイタルも度々行っている。同時に現代音楽にも熱心で、サー・ジョン・タヴナーの《奇跡のヴェール》、トーマス・アデスの《見出された場所》など、数々の新作の初演を任されてきた。
若い聴衆のための活動にも情熱を傾け、子どもたちに向けて執筆した2冊の書は、すでに多くの言語に翻訳されている。2022年2月には、『Robert Schumann’s Advice to Young Musicians』の邦訳版『音楽に本気なきみへ イッサーリスと読むシューマンの助言』(板倉克子訳)が音楽之友社から出版された。最新刊は、『The Bach Cello Suites』。
ここから引用
主な使用楽器は、イギリス王立音楽アカデミーから貸与された1726年製のストラディヴァリウス「マルキ・ド・コルブロン(ネルソヴァ)」です。
私はイッサーリスに関しては、非常に音程のよいプレイヤーとの認識でした。今回の演奏を聴いて、音作りや音色に関しても徹底していることを感じました。特に柔らかい音のすばらしさを強く感じました。
コニー・シー
イッサーリスとコニー・シーの共演するユーチューブ動画がいくつかあります。イッサーリスが信用している共演者なのでしょう。
彼女は、中国系のカナダのピアニストです。9歳の時にメンデルスゾーンのピアノ協奏曲第1番をシアトル交響楽団と共演しデビューしています。天才少女ですね。12歳でハンガリーのピアニストシェベーク・ジェルジに師事。その後ヨーロッパでフー・ツォンにも学んでいます。
イッサーリスとのコンビで3枚のディスクが見つかります。盟友ですね。
ラフマニノフのチェロソナタは地味な印象をもっていましたが、今回の演奏や発売ディスクの多いことを知り、やはりチェロの名曲であることを再確認しました。美しい旋律、ロシアの広大な大地を彷彿とさせる風情。リズムの立った3楽章も楽しいです。自分で弾くには勇気がいりますが、旋律を歌わせる勉強にはなりそうです。ぜひ聴いてみてください。
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