3月4日に北九州市黒崎ひびしんホールにて聴いてきました。クララ・シューマンの短い曲に続いて、大曲が2曲演奏されました。マチネだったので、前日から北九州入りし、観光も楽しみました。さて、男性3人によるピアノ三重奏はどうだったでしょうか。
結論
- 遠征してよかった。よき音楽は自ら求めよ。
- ブラームスのメロディのすばらしさを再確認。いつか演奏してみたい。無理?
- ラーク国際音楽祭に注目してみたい。
パーソネル
「珠玉のピアノトリオ」と題された今回の演奏会の演奏者は、バイオリン:中村太地・チェロ:辻本玲・ピアノ:佐藤卓史です。
中村太地氏は、小倉高校を卒業後渡欧し、デュメイらに学んだという変わった経歴の持ち主。2017年のブラ-ムス国際コンクールで日本人初の優勝をした人です。使用楽器はグァルネリ・デル・ジュス。
辻本玲氏は、N響チェロの首席奏者でよくTVでも見かけますね。東京芸大主席卒業後、シベリウスアカデミー、ベルン芸術大学に留学しています。2009年ガスパール・カサド国際チェロコンクールで3位入賞。これは日本人最高位だそうです。使用楽器はストラディバリウスです。
佐藤卓史氏は秋田県出身。2007年シューベルト国際コンクールで優勝。「現代随一のシューベルト弾き」の名声を確立しています。ユーチューブチャンネルをもち、現在「全音ピアノピース」全曲演奏動画を配信中とのこと。おもしろそうですね。
クララ・シューマン
プログラムの初めは、クララ・シューマンの創ったト短調の作品から1楽章だけが演奏されました。これはチェロの辻本氏が大好きな曲らしく、プログラムに加えられたとのことでした。全曲演奏すると30分くらいかかるので、今回は後に大曲が控えているので1楽章のみの演奏となったのでしょう。
初めて聴きましたが、愁いに満ちたメロディが一聴して心を捉えます。作曲完成時にクララは、お腹の子を流産したり、第4子を1歳で亡くしたりと不幸が続いていました。その思いも込められているのでしょうが、悲しみの中にあらわれる幸せな旋律がとてもすてきです。夫ロベルトの体調回復があったせいかもしれません。
その後ロベルトは2曲のピアノ三重奏を書きますが、クララのこの作品が影響を与えたといわれています。夫婦愛が名作の誕生に寄与しているというのが美しいですね。
大公
中村氏がマイクをとり、自身が主催するラーク国際音楽祭への支援を訴えました。この音楽祭の演奏は昨年長崎でも行われたのですよね。私は見落としていました。聴きにいった人はよかったと言ってました。残念。この音楽祭がまた行われるようです。応援したいですね。ネットでも情報は少ないですね。
マイクが佐藤氏に移り、「大公」の解説がなされ、演奏に入りました。ベートーベンのパトロンであり、王位継承権をもつやんごとなき貴族「ルドルフ大公」に献呈された曲です。4楽章から成る大曲です。
3人の演奏はアグレッシブで、のんびり感が好きな私には、ちょっと疲れる感じでした。しかしチェロはよく鳴っており、さすがと思わせます。バイオリンは音量は控えめですが、上品な音色がこの曲には合っていると思いました。
ブラームスの1番
休憩を挟んで、後半はブラームス初期の作品です。作品8ですね。しかし、この曲は作曲から30年以上後に大幅な改訂が行われており、今回はこの改訂版での演奏となります。ブラームスは改訂すると初版はすぐ破棄するのが常だったのですが、この曲に関しては2つの版が現存しています。
ピアノの短い前奏の後、すぐにすばらしい旋律をチェロが奏でます。バイオリンがそれを引き継いで曲は展開していきます。この旋律を聴くと、ブラームスは稀代のメロディメーカーだったことがよく感じられます。人の心の琴線にふれる音楽というか、この旋律を聴くだけで、この曲に惚れてしまいます。
時に情熱的に時に抒情的に広がっていくこの曲は、今回の3氏の演奏にはぴったりとはまる感じで、大変楽しめました。バランス的には、バイオリンのボリュウムがもう少し欲しかったというところでしょうか。
アンコール ピアソラ:ブエノスアイレスの秋
ピアソラの名曲から「秋」をアンコール演奏してくれました。ピアソラの音楽は気分を高揚させてくれますが、ベートーベン・ブラームスの大曲で少し疲れた体をもみほぐしてくれるかのような効果があってよかったと思います。弦楽器それぞれにソロがまわってきますが、どちらも見事です。
特にグリッサンドによるじらすようなフレーズが印象的ですね。エネルギッシュな演奏がぴったりはまっていました。このブエノスアイレスの四季は、きちんと聴いてみたいと思います。
長崎から北九州まで遠征してのコンサート試聴でしたが、行って良かったですね。これからも、自らよい音楽を求めて遠出もいとわず出かけてみたいと思います。コンサートを旅の目的にするのはいいのではないでしょうか。旅行中に今年のアルゲリッチ音楽祭のチケット発売が始まったのですが、ずっとアクセス不能でやっとつながったときには、完売でした。それは旅の悲しい思い出となりました。北九州市立美術館の「浮世絵に見る江戸の名所」はよかったですよ。5月までやってます。広重が特に心に留まりました。
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