息の詰まるような異世界に一時は挫折しそうになりましたが、最後はハッピーエンドでよかった。クリーチャーのイメージは独特で唯一無二ですね。
あらすじ
佑河樹里は、無職の父 貴文、ニートの兄 翼、隠居の祖父(じいさん)と母親、シングルマザーの妹 早苗、甥 真と共に、貧乏な暮らしながらも平凡に暮らしていた。
ある日、甥と兄が幼稚園からの帰路の途中で誘拐され、犯人から樹里・父の元に身代金要求の電話が掛かってくる。犯人の要求する身代金の受け渡し期限までは30分しかなく、間に合わないと悟った樹里は、犯人と刺し違える覚悟で2人の救出へと向かう決意をする。しかしその時、じいさんが佑河家に代々伝わるという止界術を使い、時間を止める。人も物も森羅万象が止まった止界で樹里たちは2人の救出へと向かう。
しかし向かった先で、自分たち以外の動く人間たちに遭遇、急襲されてしまう。彼らは、止界術を崇める「真純実愛会」の教祖佐河順治と、幹部の柴田・宮尾、そして幼少時代に止界に入ったことのある相談役の間島翔子、さらに金で雇われた外部の人間たちであった。彼らの目的は、佑河家にあるとされる「止界術の石」を手に入れることだった。
止界術の石を巡り、樹里の「霊回忍を追い出して強制的に止者とする能力」と、じいさんの「上限10メートルの瞬間移動する能力」を使って、教祖たちとの戦いが繰り広げられる。
wikiより引用
無職・ニート・シングルマザーなど現代日本の問題をはらみつつ、一緒に住みながらも、分断された家族が、異世界でのサバイバルを通して変わっていく姿が描かれます。ただし変化した家族の姿は、読む者に想像させる形で物語は結末を迎えますが・・・。「番外編300日後」で描かれる?
異界である止界
本書での異界は、すべての時間の流れが止まった世界。すなわち止界(しかい)です。そこで止まっている者は、止者(ししゃ)と呼ばれます。夕方のまま、日が暮れることがなく、食品等の腐敗もありません。
止界の中で動き回る樹里たちは食物を摂取する必要があるようで、スーパーから食品をもらうときに樹里は「いつも思うんだけど、これ万引きだよね」と躊躇を示します。ここで思い出したのが、押井守監督作品「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」のシーンです。
夢の中に閉じ込められた登場人物たちは、なぜか食品が補充されるスーパーから、食べ物を拝借しますが、ちゃんと毎回借用書を書いているというシーンです。どんな状況下でも「盗み」は嫌だという良心の表現でしょうか。
クリーチャー
止界において、止者を殺害しようとすると、神ノ離忍(カヌリニ)といういわゆるクリーチャーが現れ、殺害を阻止しようとします。首より下は人間のようで、上が枝状のものが生えています。独創的ですが、ぬめぬめ感が好きな私にすれば、いまいちですね。やはり、映画「エイリアン」のクリーチャーはその意味で本当に美しかったです。
敵役の佐河 順治はクリーチャーへと変化していきます。7巻から最終刊でのこちらはなかなか秀逸。特に蜘蛛の巣の糸状のがいいですね。この糸、強力な刃物でもあり、日本刀をすっぱりと断ち切ります。これは恐ろしい。ただし、脳・眼球・心臓・肺が明確に人間であったことを示すので、完全に独創的なクリーチャー感を若干減じます。
この糸状のもので佐河は繭をはり、籠城に入ります。この描写は美しいですね。まがまがしさは残していますが。
いずれにしろこれまで見たことのないイメージがたいへん素晴らしいと思います。そのイメージが美しければなおさらに私たちを感動させてくれます。そんな映像作品に出会いたいですね。本作もその一つと言ってもいいでしょう。
止界における展開が長く、また登場人物も多いので、途中で投げ出しそうになりますが、頑張って最後まで読み上げると、その感動がじわじわ伝わってくる作品だと思います。アニメにもなっているようなので、コミック・アニメお好きな方でチャレンジしてはどうでしょうか。異世界は楽しい!
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