黒川博行著「煙霞(えんか)」読了しました。
得意のバディものですが、設定に工夫をこらしています。いつもの大阪弁の軽妙さんに加え、登場人物のやりとりやストーリー展開もとてもコミカルで、どんどんページが進みます。どなたにもオススメできる作品です。
今回の主人公二人は、警察官では無く、何と高校の先生。しかも、美術の男先生と音楽の女先生の異色のバディです。
あらすじ
大阪の私立晴峰女子高校──そこでは理事長が学校法人を私物化していた。あるとき、ホステスと欧州視察旅行に出かける理事長を誘拐した、美術講師の熊谷と音楽教諭の菜穂子。私学助成金の不正受給をネタに、正教員の資格を得ようとするが、2人を操る黒幕の狙いは理事長の“隠し財産”だった。教育現場の闇は100キロの金塊に姿を変え、悪党たちを翻弄する。計画の首謀者は誰なのか、奪った金塊の行方は? 騙し騙され、コン・ゲームの要素が加わった痛快ミステリー!
googlebooksより引用
美術教師の熊谷は、正教員でない臨時職。給料は「通常男性職員の2/3」と自ら語る部分があります。教育現場では現在多くの臨時採用教員に支えられています。それでも足らずに、管理職が代わりになったり、他の教員に授業を割り振るなどして対処しています。
熊谷の正教員になるために、理事長に談判するというのはそれほどリアリティのないものとも言えないわけです。しかし、理事長の弱みをついて談判するだけだったはずが、物語はとんでもない方向に進んでいきます。
出色のキャラ立ち
本作に登場する女性二人は、忘れがたい強烈なイメージです。
まず、理事長の愛人「守野朱実」。北新地のクラブ「ヘミングウェイ」のホステス。29歳。車は理事長に買ってもらった赤のアルファロメオ。
「ばかたれ。110番なんかしてどないすんねん。」甲高い声で叫んだ。
というような調子で、敵への牙のむき出しようがものすごい。しかしながら、頭脳派の稀代の悪女というわけでなく、計画した男の言うとおりに動くある意味弱い女でもある。男に甘えるときと牙をむくときの対比がすごい。彼女は本作では何と男三股かけるという驚愕の展開。本作で最も心に残るキャラです。
実質的な探偵役であり、行動派なのが音楽教師の正木菜穂子です。
菜穂子は背が高い。165cmはあるだろう。手足が長く、細く見える。
高校の音楽の正教師ながら、ロックバンドでキーボードを弾く奔放な女性です。「着やせするタイプ、脱ぎ太り」と自分で言う下りがあり、読者をどきっとさせます。非常に魅力的です。
バディの熊谷がときにへたれそうなとき、鼓舞し活を入れ、物語を回転させていきます。クライマックスの推理力、行動力に誰もが惚れてしまうでしょう。
物語で唯一の艶っぽいシーンはその思いを決定づけます。
菜穂子が顔を寄せてきた。両手が肩にまわされ、唇が触れる。濡れた体を抱きしめた。菜穂子は舌をからめてくる。睫が長い。吐息を洩らす。
この女性キャラ二人の強烈さあまり、男性キャラは何とも影が薄い。タバコの煙の向こうに霞むようです。本書の題名「煙霞(えんか)」はあまり聞かない言葉です。調べてみると意味は「煙と霞 (かすみ) 。 また、煙のように立ちこめた霞やもや。」文字通りの意味ですね。
煙霞の意味を検索していたら、本書はドラマ化されていることがわかりました。連続ドラマWというwowowのドラマです。主演は森山未來、高畑充希が熊谷と菜穂子ですね。これはだいぶイメージが変わりますね。やはり、自分の自由なイメージを作れる小説世界はいいです。私的には、熊谷の方が菜穂子より背が低い方がいいですね。
3日間、昼夜をとわず駆け回るノンストップストーリー。強烈な二人の女性キャラを楽しみながら、とぼけていたり情けなかったりの霞のような男どもの愚かさも笑ってください。痛快でコミカル、スリリングだけど決して残酷でない、この愛すべき小説をぜひあなたも楽しんでみてください。大オススメの作品です。
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