山田洋次監督作品「男はつらいよ 寅次郎鋳物語」を観ました。毎週土曜日にBSテレビ東京でやっている、4Kリマスター版だ。マドンナは秋吉久美子。今回マドンナの詳しい事情は語られない。あまり幸せで無いことはわかる。「人生大切にしてこなかった」と秋吉は泣き崩れる。寅は「まだ若いんだし、これからいいこといっぱいあるよ」と慰める。この二人は、寅のテキヤ仲間の般若の政の息子を媒介に、「父さん」「母さん」と呼び合う中になってしまう。この純粋でばかのつくほど人の良い女の役を、秋吉は好演している。寅は今回はマドンナに惚れ込んでしまうほどには描かれず、義理人情を貫き、仲間の息子を母親に届けるのだ。この少年の生い立ちは、まるで寅自身のそれに似ている。息子と寅との別れのシーンは涙腺を緩ませる。ラスト近く、満夫が寅に尋ねる「人は何のために生きているの」。哲学的な質問に、寅は答える。「誰だって、生きてて良かったって思うことが何度かあるだろう。そのために生きてるんじゃ無いのか」今回の寅は、仲間の息子との出会いと別れ、秋吉との出会いと別れ、それらが「生きててよかった」と思ったときだったのではないだろうか。ちょっと異色な「寅次郎物語」であった。
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