いよいよ最終巻。大事に大事に読みましょう。
結論
とうとう最終巻。結のその後の激しき章。最後は平和な中に今の日本に突きつけられる提案も。
概略・あらすじ
2016年2月に「あきない世傳 金と銀 源流篇」がハルキ文庫(角川春樹事務所)から刊行され、2022年8月に完結となる「あきない世傳 金と銀(十三) 大海篇」が刊行された。
2023年8月から、登場人物のうちの4人を主人公とした短編集 特別巻が刊行された。同年12月にNHKBS時代劇でテレビドラマ化された。
江戸中期、兄と父を亡くし大坂天満の呉服商に奉公に出た学者の娘・幸(さち)が商才を発揮し商人へと成長する物語。
wikiより引用
明和九年(一七七二年)、「行人坂の大火」の後の五鈴屋ゆかりのひとびとの物語。八代目店主周助の暖簾を巡る迷いと決断を描く「暖簾」。江戸に留まり、小間物商「菊栄」店主として新たな流行りを生みだすべく精進を重ねる菊栄の「菊日和」。姉への嫉妬や憎しみに囚われ続ける結が、苦悩の果てに漸く辿り着く「行合の空」。還暦を迎えた幸が、九代目店主で夫の賢輔とともに、五鈴屋の暖簾をどう守り、その商道を後世にどう残すのかを熟考し、決意する「幾世の鈴」。初代徳兵衛の創業から百年を越え、いざ、次の百年へ──。
ネットより引用
感想(ネタバレ注意)
暖簾
智蔵の忘れ種で父親とうり二つの「寛太」が登場。
大阪店を任されている八代目店主周助の胸には、放蕩者の四代目の偽の隠し子事件のことが去来します。なぜなら寛太の育ての親文伍が、傾いた自分の紙問屋建て直しのための金銀を無心してきたからです。周助は寛太のことを調べ始めます。
寛太が畳をこぶしでたたきながら、育ての親への思いを語るシーンが最も心に残ります。彼の両親と自分の家の商売の暖簾への思いの強さが読む者の胸に迫るからです。このことが周助の元居た店「桔梗屋」の暖簾を復活することこそ周助自身の願いだと自ら気づき決意をすることに。
菊日和
幸と賢輔それにお竹が大阪に戻った後の江戸の様子が、菊栄を中心に描かれます。彼女は新しい製品を生み出すために苦しんでいます。
色に関する問答を通して、さりげなく吉之丞の突然の死や江戸から追放された結夫妻のことを読者鬼示すのはうまい書き方ですね。
菊栄は相撲年寄の額之介の妻雅江が自分で工夫していた髷の下の根掛に着目します。江戸期の女性の髷や髪飾りにリテラシーがないため想像が膨らみません。ネットで検索すると「根掛」というものがわかりました。
この根掛の色の工夫が本作のミソ。江戸紫や鴇色は何となくわかりますが、承和(そが)色・常盤色など全然イメージわきません。空色でも「甕覗(かめのぞき)」「水浅葱(みずあさぎ)」の濃さがあり、日本の色の豊富な言い方に驚くばかりです。
菊栄が選んだのが「紅掛空色」文中の表現を引用すると「少し霞がかった、春の朝の空の色」読者一人一人が、それぞれのもつ経験からこの色を想像する。これが文学のいいところですよね。
「菊日和」の題名は、最終部の惣ぼんに誘われた菊見の宴によります。江戸好みの中ぶりの菊花が庭に並ぶ料理屋。秋風に菊の香が漂い、料理は菊尽くし。
五鈴屋であつらえた最高の着物に身を包んだ美しい菊栄。個室での男女の会話は、セクシーな方には行きません。二つの船のそれぞれの船頭として、前になり後ろになって助け合い、商売の海を渡って行く商売の友の二人として描かれます。
会話の中でついに菊栄は次のアイデアを掴み、大阪の実家の分散(倒産)を聞いて故郷に決別し、江戸で自分の店を育てていくことを決心します。そんな凛としたさわやかなエンディングに読者も自然と頬がゆるんでしまいます。まさに最高の菊日和。
行合の空
江戸を追放された幸の妹 結とその連れ合い音羽屋忠兵衛、そして彼らの子 桂と茜の物語。
播磨国(兵庫県南部)に流れ、ささやかな宿を営んでいます。物語は結の「このままで終わりたくない」という煩悶から始まります。
五鈴屋にあれだけ悪辣な手段を講じた音羽屋忠兵衛は、今や銭もうけの絡め手から解放されて、つり三昧で人生を楽しんでいます。この忠兵衛が、幸への憎しみから逃れられない結を解放していく善人として描かれているのがポイントです。人は変わるんだ変われるんだということでしょうか。
結を縛り付けていたあの十二支の小紋型紙を、結自身が捨ててしまうことから、結も変わっていきます。忠兵衛が、そして二人の娘が命を賭しながら結を変化させていきます。
姉に関わる苦しみから解放された結はさわやかな行合の空を見上げて物語が閉じられます。もう、悪役がいなくなってしまいました。グランドフィナーレは近い。
幾代の鈴
大阪に戻って9代目を継いだ賢助と幸、そして大阪店の面々の物語。
「行合の空」の結の物語のような激動はなく、平和に静かに流れていきます。幸の故郷、津門村を訪れた夫妻は、通りがかった尼崎の町の荒廃に驚きます。
一方藩からの「御用金」徴収の話が沸き起こります。五鈴屋は500両を供出することを決めます。現在の五鈴屋に払えない金額ではない。放蕩4代目の時は35両を払うのにも苦労していたのに、五鈴屋は知恵と商才で大きく繫栄したのです。
結局御用金の話はなくなり、店のスタッフは喜びますが、店主とその妻は500両を尼崎藩に貸し付けることを進め、荒廃した藩を救おうとします。
自家に余裕があるときは困っているところを助けるために金銀を使う。世の中のために使う。その考えを店主夫妻は貫きます。「今だけ、金だけ、自分だけ」が繁茂した政界も経済界にもぜひ知ってほしいことが提起されていると思いました。
現在問題になっている「事業継承」についても語られています。「暖簾」はいったい何を引き継ぐのか・・・考えさせられます。このことが題名の「あきない世傳」になることが最後の最後にわかるのです。
幸と結はとうとう再開することはありませんでしたが、結の娘桂が考えた旅人の為のお守り袋が幸たちの手に渡ることで、読者を深く納得させています。ここらへん見事ですね。
本編13巻、特別編2巻が全て終了してしまいました。しばらくはロスを感じるでしょう。でも巻末に「幸たちを継いだ者たちの物語を描いていく」旨の発言が作者からあり、ほっとしています。長きにわたりすばらしい物語をありがとうございました。
15巻どの巻もおもしろい。感動します。1巻から順々に読んでいってください。止まりませんから。
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