髙田 郁 著「契り橋 あきない世傳金と銀 特別別巻 上」五鈴屋スタッフたち4人のそれぞれの物語 あまりに見事なストーリーテリング

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samon
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大人気故、図書館から回ってくるのがずいぶんかかってしまいました。次の人も待ってます。急いで読まねば。

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結論

最高に読みやすく、その物語のつむぎかたに感心させられ、そして素晴らしい感動を残す。髙田郁の名人芸を堪能できます。超オススメ!

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概要・あらすじ

シリーズを彩ったさまざまな登場人物たちのうち、四人を各編の主役に据えた短編集。
五鈴屋を出奔した惣次が、如何にして井筒屋三代目保晴となったのかを描いた「風を抱く」。
生真面目な佐助の、恋の今昔に纏わる「はた結び」。
老いを自覚し、どう生きるか悩むお竹の「百代の過客」。
あのひとに対する、賢輔の長きに亘る秘めた想いの行方を描く「契り橋」。
商い一筋、ひたむきに懸命に生きてきたひとびとの、切なくとも幸せに至る物語の開幕。
まずは上巻の登場です!

google booksより引用

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感想

風を抱く

大阪五鈴屋から消えた惣次が江戸で両替商になる顛末を描きます。惣次のギラギラした商売への情熱が、幸と対極の「幽霊」のような女房「雪乃」との出会いと関わりから、人間としての変化成長していく姿が描かれていきます。

後に幸との再会の後、幸を助けていく人間へと変化していることの理由ともなっています。

惣次に愛されることで「幽霊」だった雪乃が徐々に美しくなっていくという、女の喜び幸せも描かれ好ましい読後感を残してくれる一編です。

はた結び

五鈴屋に人生を捧げ、50を越えた支配人「佐助」の恋の物語。

転職がもはや当たり前のように語られる現代、一つの会社に一生奉仕していく佐助の生き方は奇異に映るでしょうか。それとも憧れるでしょうか。

務めた店(会社)で懸命に働き、それを幸せである生きがいと感じることができた日本もあったことは事実です。

自分の好きなこと得意なこと(やっているうちに好きになったこと)を仕事にできるかが大きな分かれ道であることはどの時代も変わらないのかもしれません。

さらに勤め先の主人、周りの人間たちがすばらしかったのは佐助の幸運であったことは間違いないでしょう。

本作では「おちか」という魅力的な新キャラが登場。布の切りくずを集めて1本1本を結び再び糸にしてそれを編む。そんな徹底的にものを大切にする時代があったのですね。この糸の結び方が「はた結び」という題名になっています。

過去に砕け散った佐助の恋を再び結びつけた切なくもうらやましい物語の象徴が「はた結び」です。

これほど物がなく、貧しい故にとことん使っていく時代が過去に確実にあったのです。そういえば、私の母など進物でいただいた物の包装紙を丁寧にはいで、捨てずにとっていたものです。再利用のためですね。

佐助の過去の恋とそして今成就する恋の結末。胸キュン間違いなしの逸品。

百代の過客

目がかすんできて、大事な針仕事がままならなくなってきたお竹の苦悩と選択の物語。医師は「年寄り目」特に「白そこひ」と告げます。これはたぶん「白内障」のことでしょう。私もこれのために急激に視力が落ちました。趣味の楽器演奏のための楽譜が見えないのです。

大いに困り、ついに手術を行いました。強度近視だった私がなんとメガネがいらなくなったのです。現代医学の進歩に大感謝です。お竹の時代にはそれはかないません。

お竹は大阪に戻ることも考えます。衰える身体では幸の足でまといになるだけでは・・・と。

お竹の物語に大阪の医師柳井から預かった大七が医師になる道を開く話も絡んできます。

さてお竹の選択はいかに?

契り橋

この話では、大川に架かる橋には「公儀橋」という幕府が作る橋と「町橋」という町人が作る橋があったということが分かります。市民が金を出して橋を作るなんて今は考えられないですよね。

これには江戸時代は町政を町に任せていたということがあるからでしょう。今のように厳密に税を徴収されていたわけでないようで、自分たちの町のことは自分たちで金を出してやれというシステムだったのでしょうか。

幕府や領主は米による税収ばかりで、銭による徴収はなかったのでしょう。それで思い出すのは、幸の父親(武士)が徹底して商人を低く見ており「人を騙す」のが商人だと幸たち子供に語っていました。武士というものが「銭」に関わること自体に拒否的だったのかもしれません。

そう教えられた育った幸が、一級の商人として成功していくのがこの物語の根幹にあり、武士の堅い固着した思想が破綻へとつながったことを暗に示してもいるように思えます。

さて、このストーリーは五鈴屋になくてなはらない柱となった手代の賢助の幸への思いの物語。

賢助7歳幸14歳のときの、着物のほころびをその場で縫い作ろい、糸を歯で切る幸の美しい姿が何度か登場します。

美しい幸が頭を寄せて自分のために糸を切ってくれる。きっとほのかにいい香りもしたでしょう。読者にもそのドキドキの体験が伝わってきます。

賢助には大阪本店での九代目店主の話が進む中、彼にも選択が迫られていきます。賢助は人生の岐路をどう選んでいくのでしょうか。お楽しみに。

この大筋に、呉服太巻仲間たちと新たな木綿仲間との大きな商談の話が絡み、そして「町橋」の建設につながっていく実に見事なストーリーテリングです。

samon
samon

いやあ楽しめました。待っててよかった!特別編下巻が本当に待ち遠しいです。これまでの「世伝」ファンは必読です。「世伝」がまだの方はまずそちらを楽しまれてからの方が、本作は染みに染みます。「世伝」全13巻はあっと言う間ですよ。高田郁の世界ぜひおいでください。超オススメ

コメント

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