飯山 陽 著「エジプトの空の下 私が見た二つの革命」実体験で語る中東のリアル 日本人が想像すらできない現実

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samon
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新刊「イスラム移民」も好調な中東研究者「飯山 陽」の過去の著。はたして。

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結論

イスラム世界の知識エジプトの現状、それらのみならず、飯山氏の豊かな人となりが感じられる良著

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概要

1歳になったばかりの娘を連れて、夫とともに「アラブの春」の只中にエジプトの首都カイロに降り立った著者。そこで体験した強烈な出来事、危険な事件の数々。

「アラブの春」の渦中、独裁政権が倒れたあとの波乱万丈の日々を、持ち前のタフなメンタリティで生き延びた日本人女性イスラム研究者の日常を描く、ノンフィクション・エッセイ。混乱の時代に出会った人たちと、いつかどこかの空の下で再会できますように!

晶文社HPより引用

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感想

一番おもしろかったのは「ゲジラ・スポーツクラブ」でのソフトボールチームなどのエピソードでしょう。エジプトと言えば砂漠の町、ごちゃごちゃしたバザールの印象ですが、この巨大なスポーツクラブの中は緑も多く、行き交う人々の姿もゆったりしていて、別世界を思わせます。

そこで多くの仲間に囲まれて楽しく過ごす陽ちゃんの姿は、混沌の中東の姿が描かれる本書の中で、まるでオアシスのように思われます。

エジプトの人々の中に自然に溶け込み、何でも自分でやってみる陽ちゃんのバイタリティーと人柄がにじみ出ている本です。

しかし中東研修者としての立場も明確に示され、「アラブの春」後の中東の実態やイスラム教の女性達の姿が実際の彼女の取材を通して語られます。特にエジプトのアルカイダ創設者、アシューシュ師へのインタビューは出色です。

オサマ・ビンラディンを「正義のジハード戦士」と語る師の話は、西側からの情報しか知らなかった私には新鮮でした。

スポーツクラブののんびりしたエジプトの姿と対極のエジプトが終わり近くで語られます。「牛の腹」と呼ばれるスラムの現実です。危険なので決して一人で行ってはいけないといわれるスラムに、著者は何度も出掛けていきます。一つの家族と仲良くなり、その家族の現実をありのままに描いていきます。

スラムで生まれ、学校に行くようになると、他者との違いからスラムの貧困を嫌でも気づかされる。お金のかかる補習を受けられないため学業は落第し、ドロップアウトしてスラムの中で、ゴミの分別を仕事として、1日30円の食い扶持のために一生ゴミの仕事で生涯を行き続け、スラムの中で死ぬ。

まさに絶望しかない世界が「牛の腹」のリアルです。

副題の「ふたつの革命」は終章で語られます。わかりやすく頭にすっと入ってきました。「アラブの春」で独裁から解放され、選挙で初めて大統領が選出されます。ところがムスリム同胞団の大統領は、イスラム原理のもと「全世界イスラム化」の目標に向けて、国民を省みず独裁へ走り、失策の連続で国民を苦境へと追い込んでいきます。

コプト教徒というキリスト教系の人々がエジプトには少数おり、この人たちが特に激しい弾圧を受けることになります。

わずか1年でモルシ大統領は国民から引きずり落されてしまいます。「アラブの春」とこの大統領の更迭が「二つの革命」というわけです。

日本を含む西側諸国はこの2度目の革命を「軍事クーデター」と報道し、「アラブの春」はよい革命、「第2革命」はよくないものという論調です。

飯山氏はこれに対し次のように言います。

「エジプトの行く末を決めるのはエジプトの人々であるはずです。彼らの選んだ道に対し、よそ者がよそ者の尺度をあてがって「ダメ」だと判断し、批判することの妥当性について、私は甚だ懐疑的です」

先日の韓国大統領の戒厳令、その後の逮捕についてオールドメディアは正確な報道をしているのでしょうか?逮捕されるような大統領をどうしてあんなに多くの国民がデモをして応援するのでしょうか。オールドメディアの「よそ者の尺度」を感じてしまいます。

オールドメディアしかない昔だったならば、多くの日本人がそれをやすやすと信じたことでしょう。もちろん私も。しかし、ネットの情報が得られるようになり、どれを真実としてとらえるかは各人に任されています。真実を見極める目を磨いていく必要性を強く感じます。

samon
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イスラム世界の知識のみならず、飯山氏の人となりも十分に感じられる良著でした。超オススメ!

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