七夕のマチネ。100回記念演奏会は高い熱量が弾けました。
結論
幻想交響曲は楽章が進むにつれ集中力と熱量が高まっていき、記念すべき名演に。誇れる市民オーケストラです。
感想
ヒンデミット:ウェーバーの主題による交響的変容
変奏の元となるウェーバーの曲を知らないわけですから、いわば全くの初めて耳にする曲というわけです。このことは例えばモーツアルトの「キラキラ星変奏曲」やラフマニノフの「パガニーニの主題による変奏曲」とは訳が違います。
つまり皆がよく知っている曲を作曲家がどうアレンジするのかの興味関心がまずもって最初からないということになります。
ウェーバーでも例えば「魔弾の射手」の有名なテーマを変奏していたらまったく異なる印象だったでしょう。
作曲家が他の作曲家のテーマを引用して変奏する意味は何なのでしょうか。
一つは前述した、人口に膾炙した旋律をどうおもしろくその作曲家の個性を入れて変えるかの興味があるでしょう。
作曲家個人の好みの旋律ということもあるでしょうか。
少し調べてみると「実用音楽」というヒンデミットの理論が浮かび上がってきます。これは、シェーンベルク・ウェーベルン・ベルクなどが発展させた「12音技法」の音楽へのアンチテーゼということ。調のない音の連続が、音楽を聴く人々を不在にさせた。そんな現代音楽の流れを変えようと試みたのが「実用音楽」という分かりやすい音楽の復権ということ。
ただし、単なるわかりやすい旋律の音楽でなく、作曲家の工夫がつまったものではあるでしょう。
全4楽章を聴いて、管楽器が主体の音楽であると感じます。弦楽器群はどうも10mくらい後ろに引っ込んで聞こえる。魅力的な旋律で歌うわけでもなく、いわばバランスを欠く音楽と感じました。吹奏楽や管楽器好きな人には好まれる曲かも知れません。私のような弦楽器好きにはいまいちな感は否めません。
楽団の友人の弦楽器奏者は、練習をしているうちにこの曲がどんどん好きになったと言っていましたので、演奏者には弾いていて楽しい作品なのかも知れません。それは悪くはないですね。
ベルリオーズ 幻想交響曲
状況は一変します。後退していた弦楽器群はぐんと前に出てきて、管楽器は定位置に。弦楽器のつややかな音色が満たされます。
バイオリンの美しい旋律に、低弦の「ドド ドド(ドレミの「ド」ではありません)」というよく響くせっぱつまったような音の杭が、この曲の狂った不気味さをうまくあらわしていると思いました。
2楽章の舞踏会では、舞台下手の2台のハープが活躍します。スコアではハープは「少なくとも4台あることが好ましい」とか書かれていて驚きます。今回の演奏ではそれを2台で実現しているとのこと。難易度高まったことでしょう。
3楽章が始まる前に、オーボエ奏者が席を立ち舞台裏に消えます。始まると舞台上のコールアングレと舞台裏のオーボエが語り合うように交互に演奏されます。荒涼とした野の近くと遠くでのささやき合いを演出したものです。
以前、オーボエかコールアングレが観客席の2階で演奏して返す映像を見たことがあります。ホール全体を野の風景に見立てた演出が見事でした。
今回の演奏ではオーボエの舞台裏での演奏ですが、思いの外よく響く大きな音で、遠くから聞こえるという効果になっておらず少し残念でした。
3楽章の弦楽器、特にバイオリンの音色はよくそろって大変に美しいと感じました。
「断頭台への行進」はファゴットの2声でどんどん音が下がっていくところが好きです。ファゴットはこのシンフォニーでは4本も必要で、全員エキストラさんでした。ハープにしろ、たくさんの打楽器にしろ、この曲は物理的な演奏のしやすさの面で難易度高く、ここにも狂気を感じますね。
終楽章は不気味で奔放な魔女の集会。前奏のあとの、「恋人のテーマ」をクラリネットが狂ったおどけぶりで演奏しますが、今回は割に穏やかでもっとめちゃくちゃやって欲しかったです。
「怒りの日」ではチューバ2本ですか。どれだけでも編成を拡張するぞというベルリオーズの狂いぶりを感じます。鐘の音は大きすぎてびっくりしました。舞台裏での演奏でもまだ大きい。演奏後に御紹介で2つの鐘が舞台上に出されましたが、ぴかぴかの新品のようでした。
ビオラのスルポンチチェロ(駒の近くを弾いて、金属的な音を出す)から始まる弦の重なりは実に不気味で効果的でした。スルポンチチェロはビオラだけだったのが驚きでした。ビオラに最大限の効果を与えるためでしょうか。
オーケストラは見事な集中力で、猛り狂う奔流のようなこの楽章を見事に演奏して、最後の金管楽器の音を印象深く残して幕を閉じました。手に汗握る見事な終楽章の演奏だったと思います。
アンコール
ベルリオーズの「ファウストの劫罰」から有名な「ラコッツィ行進曲」。大好きな曲です。トロンボーンセクションを初めとする金管群が見事でした。
金管楽器の盤石さは、長響にとっては将来を拓く羅針盤です。これまで演奏できなかったマーラーやブルックナーにも手が届くようになったのではないでしょうか。大変期待したいですね。
※写真は淵上さんのfacebookから引用させてもらいました。
すばらしい熱演の100回記念定期演奏会でした。まさに我が町の誇れるオーケストラだと思います。次の演奏は11月の「展覧会の絵」と交響詩「ながさき」の復活演奏とのこと。たのしみでですね。
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