友人がたくさんいる長崎の市民オーケストラの定期演奏会を聴きました。素晴らしい演奏に満足して会場を出ました。もはやアマチュアの瑕疵をあまり感じないハイレベルのオーケストラに成長していると感じます。
結論
大満足。選曲のバランスも良く、初めて聴く「チェコ組曲」もいい曲を教えてくれました。感謝。
ベルディ「シチリア島の夕べの祈り」序曲
吹奏楽でよく演奏する曲で、私も大好き。弦楽器の友人は「とても難しく演奏不能な箇所がある」とこぼしていましたが、演奏を聴く限りそのような場面はまったく分かりませんでした。
嵐のあとのチェロのソリは、高い音まで出る旋律でしたが、上手に歌っていました。見事。
第1バイオリンがとても高い音で静かに歌うところが、実に美しく、この演奏の中で最も心に残りました艶やかで音程もよく、アマチュアとは思えないレベルだと思います。
トロンボーン・チューバの低音金管のサウンドもとても上品で感動しました。
ドボルザーク「チェコ組曲」
トロンボーンの金管や打楽器の人々がステージから去り、弦楽器と木管中心のシンプルなステージに変わりました。ドボルザークの「チェコ組曲」は初めて聴く曲です。
穏やかな「パストラール」で始まります。はではでしい「スラブ舞曲」とは趣を異にする世界が広がります。
この作品(スラブ舞曲)は、チェコのフリアントやポルカ、ポーランドのポロネーズや小ロシアのドゥムカといった、東欧の民族色豊かな舞曲のリズムによる曲を集めたもので、スラヴの土の臭いのする、たいへん魅力的な内容となっている。
出典:志鳥栄八郎 著 「不滅の名曲はこのCDで」P122より引用
スラブという広い言語圏の音楽がスラブ舞曲で、その中のチェコという国にフォーカスしたのが「チェコ組曲」ということになるでしょうか。トランペットとティンパニは終曲のみ登場で、全体が大変穏やかです。金管楽器や打楽器が盛大に入るスラブ舞曲のあとに作曲されたわけですが、本来的にドボルザークが描きたかったのはこの穏やかな世界かもしれませんね。
この世界観を長崎交響楽団は見事に表現していたと思います。正確で美しい音色の弦楽器と管楽器のソロもとてもすばらしかった。特にクラリネットの音は美しかったと思います。初めて聴く曲でしたがよい曲を紹介してくれました。好きな曲がまた一つ増えました。
ベートーベン交響曲第5番ハ短調「運命」
説明不要の名曲ですね。前期TVドラマの中でも演奏されて話題となりましたが、今となってはそのドラマの題名すら忘れてしまいましたね。時の流れは急流です。
1楽章アレグロ・コン・ブリオ(活き活きと軽快に輝きを持って)
アレグロ・コン・ブリオをネットで検索すると、この名前のお店や企業が多いのにびっくりしました。意味を知るとなるほどとうなづけますね。
さて、演奏の方はいいテンポで活き活き進んでいきます。ただ、バイオリンのテーマが「ン・タタタ・ター」のところが、「ン・タッタ・ター」とか歯抜けに感じたところもありました。年老いた私の耳のせいかもしれません。
しかし曲の進行と共に安定。初めそろわなかったホルンの叫びも、後半は安心安定してきました。
第2楽章アンダンテ・コン・モート(歩くような速さで、動きをもって)
2楽章になると、演奏は完全に安定してゆとりすら感じます。特に、冒頭のテーマを奏するビオラ・チェロがすばらしかったです。その後何度もこのテーマは変奏されてビオラ・チェロに奏されますが、見事の一言。よく音程もそろい楽器も鳴っていました。
途中木管楽器の絡み合いがありますが、心配していたフルートが今回すばらしくアンサンブルになじんでいて、全く違和感はありません。いやあ精進されましたね。これぞ管楽器のアンサンブルですね。
第3楽章アレグロ・アタッカ(そのまま次の楽章へ)
冒頭の低音弦楽器の不穏な上行旋律、このオーケストラの低音弦楽器の安定性は抜群です。特にコントラバスの支えがしっかりしているので心地よく聴くことができます。すばらしい。
この旋律ですが、映画「TARター」の冒頭で主人公の指揮者がインタビュアーに「ベートーベンは、この旋律をモーツアルトの40番のシンフォニーの終楽章冒頭からぱくった」といっていました。確かに似てますが、本当かいな?
ベートーベンの実験として、「アタッカ」とあるように3楽章から4楽章にそのままつながっていく試みをしています。密やかなその部分では木管楽器がメインテーマの「タタタ・ター」を思い出すように奏し、ファゴットが「タッカタッカ」と特徴的なリズムをで低くなっていきますが、ちょっと疲れが見えました。
第4楽章アレグロ・プレスト(速くからの超速く)
長い苦しみを乗り越えた勝利の賛歌。興奮のるつぼ。オーケストラは一体となってこの喜びを奏しておりなんの文句もありませんね。
ベートーベンが実験的にシンフォニーに導入したトロンボーン。神の楽器として教会で演奏することが多かったトロンボーンを世俗に引っ張り出してきて抜群の効果を発揮させました。3本のトロンボーンの音色・バランスとてもすばらしいですね。上品さを感じました。
ベートーベンは生涯にわたって、「ピアノソナタ」「交響曲」「弦楽四重奏曲」を作りましたが、ピアノソナタで土台を作り、交響曲で冒険をし、弦楽四重奏曲でまとめたと言われています。実験的冒険的試みが大成功したこの「運命」を長崎交響楽団は見事な演奏で楽しませてくれました。
曲が終わると盛大な「ブラボー」がかかりました。コロナの終焉を喜びたいですね。私ももちろん心の中で「ブラボー」を叫びました。
アンコール
大サービスの2曲。ベートーベンの「トルコ行進曲」とドボルザークのスラブ舞曲。スラブ舞曲はとてもいい曲で、ドボルザークのメロディメーカーとしての天才を感じます。派手派手もいいですね。穏やかな「チェコ組曲」が懐かしく思い出せて、よい選曲だと思いました。
大満足の演奏会でした。私が在籍していた頃と比べものにならないほど長崎交響楽団はレベルアップしていますね。地元の市民オケがこれほど上手だと、もはや誇りですね。次回はブラームスの2番ということで期待しています。でもこれだけのレベルですから、もうワンランク難しい曲にチャレンジしてもいいのかなと思います。特に今年はラフマニノフの生誕150年だったので、ラフマニノフのシンフォニーを聴きたかったですね。楽団の皆様いい演奏をありがとうございました。久し振りの打ち上げも盛り上がったことでしょうね。
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