
「リング」原作者の最新巻ははたして?
結論
2つの事件を追う魅力的な登場人物たち。怒濤のクライマックスにページをめくる手が止まらない。
概要・あらすじ
鈴木光司 : 1957年静岡県浜松市生まれ。慶應義塾大学仏文科卒。90年に第2回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞となった『楽園』でデビュー。95年発表の『らせん』で第17回吉川英治文学新人賞を受賞。『リング』『らせん』『ループ』『バースデイ』の「リング」シリーズが人気を博し、『リング』は日本、ハリウッドで映画化。2013年には『エッジ』で、アメリカの文学賞であるシャーリイ・ジャクスン賞(2012年度長編小説部門)を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
ネットより引用
原因不明の連続突然死事件を調べる探偵の前沢恵子は、かつて新興宗教団体内で起きた出来事との奇妙な共通点を発見する。恵子と異端の物理学者・露木眞也は「ヴォイニッチ・マニュスクリプト」と事件との関連性に気づく。だがそのとき、東京やその近郊では多くの住民の命が奪われはじめていた——。
googlebooksより引用
感想
分厚いハードカバー装丁。しかしさくさくと読めていく鈴木光司の文体やストーリーテリングが私には良く合います。
冒頭の南極観測隊の帰国とおみやげの南極氷から始まるエピソードでもう完全に物語に引きこまれます。深い層から掘り出された南極の氷。現在と異なる有毒物が過去の地球に蔓延していたという恐怖。我々を脅かすのが地球外からやってきたエイリアンとかでなく、地球の原初に存在していたというのは恐ろしい。
そこに新興宗教団体の集団死という事件が絡んできます。新興宗教の不気味さとあり得るリアリティが、違和感なく物語を展開していきます。

登場人物も魅力的。異端の物理学者 露木、妻を出産で失いそのショックから産まれたわが娘を育てる責任を放棄したという重い十字架を背負っています。義理の父母に娘の養育を任せてしまったが、義父母が亡くなり、娘が自分のところに戻ってくるという微妙な状況です。
もし母親なら自分の腹を痛めた子を決して手放すことは本能的にないのでしょう。でも男はちょっと違うかも知れません。父親と母親の子に対する生物的な異質性は厳然としてあるように思います。
調査会社の女探偵恵子が加わり物語を彩ります。露木も恵子も単車を操り、共に走るシーンが二人の一体感を作ります。先日読了したスティーブン・キングの「アウトサイダー」にも女探偵ホリーと刑事とのペアが事件を追及していきますが、この二人と露木・恵子のペアは若干肌合いが異なるのも文学のおもしろさでしょうか。
ここにもう一人重要な登場人物中沢ゆかりが加わります。ゆかりは新興宗教集団死事件で唯一生き残った女性でありクライマックスで壮絶な役割を果たす、ミステリアスで魅力的な人物です。映画化の際には彼女のキャスティングは頭を悩ませるでしょう。
クライマックスはお台場砲台跡という都内にありながらも立ち入りできない特殊な人工島で繰り広げられます。そこでの「あれ」との戦いはいささか現実離れしているように思いますが、幻想的でもあり引きこまれます。

人工島での戦いと迫り来る殺人水の二つの恐怖が絡み合って進むクライマックスはページをめくる手がまったく止められません。夜明けのレインボーブリッジから見るガスの燃焼も脳内スクリーンにこれでもかと美しい映像を再生します。
「あれ」がすべてを操っているという本書のテーマは衝撃的で、以降毎朝散歩をするたびに、たしかに「あれ」は地球にこれでもかと繁茂(ユビキタス)しているなと感じられ、景色が異なって見えるようです。
さて、「ユビキタス」は作者が4部作構想を語っているようです。第2部は米国編、第3部は大航海時代編そして第4部は宇宙編ということです。当分楽しみはつきないですね。

16年ぶりの新作は超楽しませてくれました。続巻も非常に楽しみです。ぜひお読みください。超オススメ!
コメント