九州交響楽団の演奏会に行ってきました。バイオリンという楽器の凄さを再確認しました。
結論
トリル、重音(ダブルストップ)、スピッカート・・・バイオリンのありとあらゆるテクニックを楽々と美しく演奏し、ストラディバリのその美音が心をつかんではなさない。超名演。
概要
第37回 名曲・午後のオーケストラ若い才気が紡ぐ、新たなる感動 九響主催
曲目 ブラームス/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
シベリウス/交響曲 第2番 ニ長調 作品43出演 指揮 平石 章人
ヴァイオリン 郷古 廉
郷古 廉(ごうこ すなお)
2013年8月ティボール・ヴァルガ シオン国際ヴァイオリン・コンクール優勝ならびに聴衆賞・現代曲賞を受賞。現在、国内外で最も注目されている若手ヴァイオリニストのひとりである。
1993年生まれ。宮城県多賀城市出身。2006年第11回ユーディ・メニューイン青少年国際ヴァイオリンコンクールジュニア部門第1位(史上最年少優勝)。2007年12月のデビュー以来、読売日響、大阪フィル、名古屋フィル、仙台フィル等を含む各地のオーケストラと共演。共演指揮者にはゲルハルト・ボッセ、フランソワ=グザヴィエ・ロト、秋山和慶、井上道義、下野竜也、山田和樹、川瀬賢太郎各氏などがいる。《サイトウ・キネン・フェスティバル松本》、《東京・春・音楽祭》、《ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン》にも招かれている。また2017年より3年かけてベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲を演奏するシリーズにも取り組んだ。事務所サイトから引用
感想
ブラームスのコンチェルトは、数あるバイオリンコンチェルトの中でもトップクラスに好きな曲です。それをN響の新しいコンマスの郷古廉がソロを務めるというのですから期待です。
座席は前から4列目の左よりでしたので、ソリストが5mほどの近くにいる形です。郷古氏は想像より小柄で、鼻とあごに髭をたくわえていました。大人っぽさを演出するねらいかもしれません。
小柄だった印象は、ソロの入りとともに一気に払拭されます。大オーケストラの中にぽーんとスポットが当たったようにバイオリンの音が明瞭に聞こえてきます。
郷古氏のテクニックは完璧で、特に重音(2本の弦で同時に音を出す)とトリルの正確さには瞠目します。完全に脱力された左手から繰り出されるトリルの連続。どの指でも均等に音が出され、全く楽々と成されます。
フィンガリングとポジション移動は非常に合理的で、ハイウェイを滑るような美しさがあります。
カデンツァはヨアヒム版ではないようでした。このカデンツァはトリルの連続する中間の盛り上がりがすごかった。
第2楽章は冒頭のオーボエのソロがすばらしいかったです。それに導かれて歌い出すソロバイオリンが輪をかけて美しく芳醇でした。
使用楽器は1682年製ストラディヴァリ(Banat)。個人の所有者の厚意により貸与されたもの。35cmほどの木製の楽器から、これほどの多彩な音色やボリュウムが出てくることに改めて驚かされます。なにより人の心をとらえて離さないバイオリンの美音の力を再確認させられます。
第3楽章は、重音による硬質のバイオリンソロからいきなりスタートします。すぐにオーケストラ全奏が答え、丁々発止の呼応合戦。1本のバイオリンと50人以上の全奏が対等に渡り合います。それは単なるボリュウムの問題ではないように思われます。
1本のバイオリンから放たれた音が、聴く者の中に刺さっていくパワーの話だろうと思うわけです。
ライブで演奏者の姿を見ながら聴いていると、どこでバイオリンが終わってオケにつながるかかなどが明確に分かります。それで感じることは、ブラームスのこの曲がほんとうによくできているということ。曖昧さなき役割分担の妙を感じましたね。
鳴り止まない拍手にアンコールを演奏してくれました。バッハの無伴奏パルティータ1番のサラバンド・ドゥーブル(変奏)。ブラームスとは異なる静謐な世界を描きます。ほとんどビブラートがなく、目視できたのは盛り上がって音が大きくなったときの1回だけでした。
会場ごと別の世界に連れ去られたようでした。終わって万雷の拍手に現実に引き戻されます。
バイオリンという小さな楽器の恐るべき巨大さを感じたひとときでした。なかなかできない音楽体験に感謝します。後半のシベリウスの2番も立派な演奏でした。
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