雑誌ダヴィンチでのインタビューで道尾の「文章メディアはアップデートが必要」との話を読み、進化した推理小説の1冊読んでみました。
結論
4つの章は個別でありながら有機的につながり、その中で幾重にも驚かされるトリックが仕組まれています。驚きの体験ができることまちがいなし。
概要・あらすじ
“写真”が暴くもうひとつの真相。あなたは見抜けるか 各章の最終ページに登場する一枚の写真。その意味が解った瞬間、読んでいた物語は一変する——。二度読み必至の驚愕ミステリ。 ※この電子書籍は2019年7月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
googlebooksより引用
道尾秀介
004(平成16)年『背の眼』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、デビュー。2007年『シャドウ』で本格ミステリ大賞、2009年『カラスの親指』で日本推理作家協会賞、2010年『龍神の雨』で大藪春彦賞、『光媒の花』で山本周五郎賞、2011年『月と蟹』で直木賞を受賞。ほかの作品に、『向日葵の咲かない夏』『片眼の猿』『ノエル』『貘の檻』『透明カメレオン』『いけない』『N』『きこえる』、犯罪捜査ゲーム『DETECTIVE X』などがある。
新潮社サイトより引用
感想
弓投げの崖を見てはいけない
ページ数も多く、4章の中で最も力の入った作品。物語の端緒であり、全4章の背骨となります。
小説ならではの叙述トリックに驚くとともに、章末の地図から誰がひき殺されたのかが分かり、それを確かめるために、前のページに戻って再読は必至です。
トリックのみならず、祭囃子の中のシーンなど非常に映像的でかつ音も聞こえてくるような臨場感に満ちています。
その話を聞かせてはいけない
中国出身の少年のいじめを背景に、少年が見たことがクライマックスで一気に恐怖となる一編。同じくいじめ続けられてきたであろう日本人少年がキーパーソンに。彼の手に空いた底なしの暗い傷跡にぞっとします。
章末の写真はテレビの映像を写したもの。端っこに!
絵の謎に気づいてはいけない
第1章の刑事隈島にかわいがってもらっていた竹梨刑事がルーキーの水元刑事と、新興宗教の勧誘役の女性の自殺事件を追う。
1章でも大事な役をした新興宗教が大きく物語に関わってきます。大きな喪失を抱えた人に近づいていく新興宗教のおぞましさがクローズアップされていきます。
章末の写真は、あっと驚きの書き込み。矢印は胴体と腕に。
街の平和を信じてはいけない
終章は死んだと思っていた人物が生きていてまず驚愕。1章で死んだのは別のあの人物となる。ここでも1章に戻って再読。本当に死んだこの人物も手にあるものを持っていたのはまちがいありません。
竹梨の告白の手紙と生きていた彼の告白の手紙が交錯。目が見えないことを使ったトリックが秀逸です。章末のその告白の手紙の写真が二重にあっと驚かせます。妻の愛も描いていたんだ。
第2章の二人の子供が再登場。小6に成長していて、「(この町は)平和っていうか」と物語を明るく締めくくりますが、章の題名は「街の平和を信じてはいけない」。不穏な予兆を残しながら幕が閉じられます。
4つの短編がそれぞれにトリックを楽しませながら、有機的につながっているところも秀逸ですね。
幾重にも仕掛けがある大満足の1冊でした。「いけない2」は刊行済み。しばらく余韻を楽しんでから、リクエストしてみましょう。超オススメの1冊です。
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