アリス=紗良・オット の「ナイトフォール」コンサートを聴きました(NHK-BSクラシック倶楽部)。彼女はナイトフォールを「逢魔が時」と訳していました。光と闇が交わる黄昏時。それは日の光に包まれていた時間に、すっと魔が忍び寄る時間でもある。彼女はそれを人間のもつ二面性にとも結びつけていた。少し怖いが、魅力的な時間帯では無いか。黄昏=誰そ彼。人の顔が闇に溶けて、誰かはっきりわからない。たぶん知っているあの人のようだけれど、もしかしたら全然違う恐ろしいものかもしれない。とても興味深いコンサートテーマである。
曲は、ドビュッシーの「夢」、サティの「グノシエンヌ」や「ジムノペティ」、そして最後にラベルの「夜のガスパール」。アンコールに「亡き王女のためのパバーヌ」。各曲間には、拍手が挟まれず連続して演奏される。舞台は暗く、青い光がアリスを照らす。鍵盤の上はブラックライトを当てたような感じにもなり、その上をアリスの指先(真っ赤なマニキュアが印象的だ)が泳いでいく。彼女はしきりに上を見上げ、まるで音楽の魂が登っていくの見つめるかのようだ。静かで淡々とした前半と「ガスパール」の中の非常に激しい「スカルボ」の対比は激しく、その両方が聴く者の心にくさびを打つようだ。「スカルボ」が終わった後、鍵盤の上に残った右手は、すこしけいれんしたように震えた。忘我の境地のアリス。音楽に全てを捧げたかのようだ。立ち上がった彼女はあふれる涙を指でぬぐって、深々と聴衆に頭を下げた。いや音楽の神に下げたのか、いや音楽の悪魔に?
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