貴志祐介 著「罪人の選択」 毒入りがどちらかを推理する究極シチュエーション表題作とコロナパンデミックに生まれたSFとは

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samon
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大好きな作家の読み落としていた作品集。4話の中編はいかに。

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結論

著述時期が異なる3編のSFと1編の推理ものは貴志の才を再確認させる興味深い良書。オススメ。

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夜の記憶

『十三番目の人格‐ISOLA‐』『黒い家』で本格デビュー前に書かれた貴重な一編。水生生物の「彼」は、暗黒の海の中で目覚め、「町」を目指す。一方三島暁と織女の夫婦は、南の島のバカンスで太陽系脱出前の最後の時を過ごす。二つの物語が交錯するとき、貴志祐介ワールドの原風景が立ち上がる。

ネットより引用

水生生物の項をa-1・・・、三島とオリメの項をb-1・・・という項目名で進むのが理系の論文ぽさが出ていますね。しかし、aの項の文章など非常に美しくばりばりの文芸系というのがおもしろい。

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呪文

『新世界より』刊行直後の発表。文化調査で派遣された金城は、植民惑星『まほろば』に降り立った。目的は、この惑星で存在が疑われる諸悪根源神信仰を調べるためだ。これは、集団自殺や大事故などを引き起こす危険な信仰で、もしその存在が認められたら、住民は抹殺される。金城は『まほろば』の住民を救おうとするが……。

同上

大長編「新世界より」の世界観には本当に感心し、その世界を堪能させてもらいました。山田宗樹は巻末の解説の中で、まほろば住民が不満のエネルギーをマガツ神という架空の存在に向けて放出するのを現代のSNSでの誹謗中傷に重ねていますが、読んでいる最中はそんなことには気づきませんでした。

他の惑星での物語であることを忘れて、日本の田舎の村落での出来事のようにミスリードさせられます。むしろ、神を敬い崇めるので無く、諸悪の根源として憎み打擲することで、日々の不満を解消するという神のあり方に興味がもてました。

罪人の選択

1946年8月21日、磯部武雄は佐久間茂に殺されようとしていた。佐久間が戦争に行っている間に、磯部が佐久間の妻を寝取ったからだ。磯部の前に出されたのは一升瓶と缶詰。一方には猛毒が入っている。もしどちらかを口にして生き延びられたら磯部は許されるという。果たして正解は?

同上

本書の中では唯一の推理ものです。「夜の記憶」同様に二つの物語が交互に語られていき、それが交錯するときに広がる世界がおもしろく、本書での貴志の特徴として浮き上がります。どちらに毒が入っているのか、読者も主人公同様必至で推理させられてしまいます。

赤い雨

新参生物、チミドロによって地球は赤く蹂躙された。チミドロの胞子を含む赤い雨が世界各地に降り注ぎ、生物は絶滅の危機にあった。選ばれた人間だけが入れるドームに、成績優秀のためスラムから這い上がった橘瑞樹は、不可能と言われた未知の病気RAINの治療法を探る。

同上

赤い海はむろん「エヴァンゲリオン」の世界をイメージさせられます。しかし常に赤い雨が降り続く世界はエヴァのそれより陰惨であり、どちらかというと映画「セブン」の降り続く雨のシーンを思い浮かべました。

ディストピア小説にあって、主人公の瑞樹と光一は美しく爽やかで、希望溢れる読後感で本書のラストを飾っています。

法廷シーンはエンタメ的にもすぐれ、大逆転のカタルシスが最高です。

ドームの上流社会とスラムの存在は「銃夢(ガンム)」あるいはその映画化「アリータ バトルエンジェル」の世界を彷彿とさせます。しかし、降り続く赤い雨はそれらよりさらに陰惨です。「雨」の陰惨さが心に残る作品です。

samon
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本書でも貴志のどこまでも広がるイメージと文章の冴えを楽しませてもらいました。次は「極楽鳥になる夢を見る」予約かけます。おや「兎は薄氷に駆ける」という新作も出ていますね。いずれも楽しみ。

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