個性豊かな4つの中編で楽しませてくれた「秋雨物語」の続巻。今回もバラエティに富んでます。頭の中に広がる色彩がすごい。
結論
期待をうらぎらない傑作。脳内に広がる色彩の渦にくらくらしながら、推理的論理性も兼ね備えるスーパー中編集。超オススメ!
概要・あらすじ
貴志祐介が描くホラーミステリの極北 。あなたの罪が、あなたを殺す。
・命を絶った青年が残したという一冊の句集。元教師の俳人・作田慮男は教え子の依頼で一つ一つの句を解釈していくのだが、やがて、そこに隠された恐るべき秘密が浮かび上がっていく。(「皐月闇」)
・巨大な遊廓で、奇妙な花魁たちと遊ぶ夢を見る男、木下美武。高名な修験者によれば、その夢に隠された謎を解かなければ命が危ないという。そして、夢の中の遊廓の様子もだんだんとおどろおどろしくなっていき……。(「ぼくとう奇譚」)
・朝、起床した杉平進也が目にしたのは、広い庭を埋め尽くす色とりどりの見知らぬキノコだった。輪を描き群生するキノコは、刈り取っても次の日には再生し、杉平家を埋め尽くしていく。キノコの生え方にある規則性を見いだした杉平は、この事態に何者かの意図を感じ取るのだが……。(「くさびら」)想像を絶する恐怖と緻密な謎解きが読者を圧倒する三編を収録した、貴志祐介真骨頂の中編集
ネットより引用
感想
「皐月闇」は自殺に至るまでの俳句を解釈していきながら進むストーリーが興味深いです。老教師の解釈と依頼人の解釈の違いで、その場の見え方が一変してきます。
何より自分が犯した罪を忘れていくという、老いの恐怖が描かれています。忘れた本人より周りが困るというのはまさに認知症増加の現代の問題でもあります。
「ぼくとう奇譚」は夢の中の遊郭での女達の描写が美しい。「海老殻間道(えびがらかんとう)」の袋帯など、着物の特殊な用語は具体的な想像はできないのですが、逆にそれぞれの読者が自由に思い描くことでしょう。
永井荷風の小説「墨東奇譚」の「墨東(ぼくとう)」とは隅田川の東岸のことですが、本作の「ぼくとう」とは「ボクトウガ」という蛾のこと。
ボクトウガの幼虫は、クヌギやコナラに穿孔して大量の樹液を出して、それを餌に集まってくる虫を捕食します。
生成AI
クライマックスではこの樹液が噴出してとんでもないことになります。
修験者が登場し、主人公の夢の災厄を払おうとします。修験者は第3話「くさびら」でも登場し、護摩祈願の描写など、本連作の特徴的な要素となっているように思われます。
第3話の「くさびら」とはキノコのこと。幻のキノコが庭中、そして部屋の中に咲き乱れる描写がとても色彩的です。むろん各読者が頭の中に描き出した色彩であるのが、小説の醍醐味です。
修験者をからかう狂言が複数あることが書かれています。「柿山伏」などは小学校の教科書でも学習します。「蟹山伏」「犬山伏」「禰宜(ねぎ)山伏」など、山伏の祈りがまったく効かないか、逆に効きすぎて困る姿を笑います。山伏は傲慢で嫌われていた存在だったのですね。
本作では山伏たる修験者に加え、霊能者「賀茂禮子」が登場します。彼女は貴志の別の作品カギ『我々は、みな孤独であるカギ』に登場するキャラクターです。ゴブリンのような独特の容姿が印象的でした。
さらに探偵末広が登場し、クライマックスはきっちりとしたミステリーの謎解き場面が描かれます。
本作の修験者は主人公の大学の友人女性というのも異色。若き女修験者ってすこしセクシーと思いません?
多くの特徴的な登場人物が贅沢に登場し、中編ですがゴージャスな作品となっています。
前作『秋雨物語』もすばらしい作品でした。過去ブログにあげています。
本作も負けず劣らずの傑作と思います。前作とはまた趣向を新たにしており、どれだけバラエティに富んだ作品がかけるのだと、作者の才能をうらやましく思います。
今回も期待をうらぎらないできでした。貴志祐介大ファンです。次回作にも期待しましょう。ぜひお読みください。超オススメ!
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