楽しみにしている諫早交響楽団の定期演奏会。春はベートーベン、チャイコフスキー、シベリウスです。前回苦手なブルックナーでしたが、今回は大好きなシベリウスの2番がメインプログラム。チャイコでは新しい試みもありました。
ベートーベン:エグモント序曲
全ての楽器が同じ「ファ」の音を奏でる印象的な冒頭は民衆の叫びを表現。悲劇を予感させる重々しい響きに続いて、暗く緊張感のある旋律と柔らかな旋律が次々と登場し、苦難を乗り越えるかのように下降と上昇を繰り返します。終盤はテンポを加速して華やかな曲調となり、まるで英雄の死を称え、未来の勝利を暗示させるかのような力強い響きで幕を閉じます。深い苦しみや悲しみに絶えながらも立ち向かう人々の姿を描いた作品です。
演奏会プログラムより
序盤管楽器の出が合わないなどありましたが、徐々に息が合ってきて安心して聴くことができました。速くなってからの「ジャンジャンジャ ジャンジャ」は特に重々しく演奏され、印象的でした。
チャイコフスキー:バレエ音楽「白鳥の湖」より抜粋
新趣向が試されました。ステージはオーケストラピット内のように暗くなり、背後のスクリーンに静止画像が投影されます。そして、「白鳥の湖」の物語を地元高校の放送部の皆さんが語るというもの。語りの途中に演奏が行われます。
結論から言うと、大成功。とても楽しめました。通常個々の曲としても楽しまれる「四羽の白鳥の踊り」や「ハンガリーの踊り」「ナポリの踊り」などが物語の中のどういう場面で演奏されるかがよくわかり、ひとつの物語として一貫性をもって楽しむことができました。
演奏も充実していて、特に「ナポリの踊り」でのトランペットソロなどはあまりに上手で驚きます。管楽器の名手がいると、オーケストラはいろいろな曲にチャレンジできますね。
フルート、クラリネット、ファゴットは悲しい物語に即した暗い音質を出せていてすごいと思います。オーボエは明るい音色で少し違和感がありました。
シベリウス:交響曲第2番 ニ長調
シベリウスの7つの交響曲の中でも、最も人気の高い名曲です。私も大好きでいろいろな演奏をCDやレコードで聴いてきましたが、今回ほど生演奏のすばらしさを感じたのは初めてです。
第1楽章
冒頭の弦楽器のさざ波がとても柔らかく気持ちのよい肌触りを感じます。響きの少ないこのホールでこれだけの心地よさが出せるのは、作曲のすばらしさと弦楽器奏者の技の共同作業によるものでしょう。
それに続く木管、そしてホルンの響きまでプロ級に上手ですねえ。
鮮烈なバイオリン2部のユニゾンも抜群の透明感でした。弦楽器全員でのピチカートの上行やかさこそとした細かい動きの堆積など、弦楽器の可能性をこの曲はよく感じさせてくれます。いやこの演奏が感じさせてくれました。
金管の迫力、木管のハーモニー、弦楽器のアンサンブルがバランスよく響いていました。そしてティンパニも氷河が崩れ落ちるようでした。
第2楽章
ベートーベンくらいまでの交響曲とシベリウスのそれにおける楽器の使い方の大きな違いが、チェロとコントラバスの使い分けにあると思います。前者はチェロとコントラバスはほとんど同じ楽譜です。シベリウスは全く違うパートとして考えていることがこの2楽章でよく分かります。
冒頭のピチカートからそうであり、コントラバスのピチカートはチェロに移りますが、重なるところはありません。バイオリン・ビオラ・チェロが旋律を歌う部分でも、コントラバスはリズムを割り振られることが多いように思いました。
この楽章には、パウゼ(ポーズ)といいましょうか音が途切れてしまう部分がたくさんあります。作曲家が意図的にそうしています。私はこの音が途切れた瞬間、そのホールの響きが音楽を補完すると思います。音が無くなっても響きだけが感じられる瞬間だと思うわけです。つまりホールの楽器としての機能が発揮される時であるわけです。
残念ながらこのホールでは響きは消えてしまっていました。コンサートホールとしてよいものがないというのが長崎のとても残念なところです。長崎市に新しくできる中規模ホールはどうなるでしょうか?みんなで注視していきましょう。
このホールの残念さを背負いながら、このオーケストラはとてもすばらしい感動をあたえてくれる2楽章を展開してくれました。
第3楽章・第4楽章
速い三連符が続く3楽章は、アマチュアオケにとっては難関楽章です。速すぎると破綻するし、遅すぎるとかっこわるい。諫早交響楽団は絶妙最適なスピードで展開していきました。見事です。
中間は木管楽器の牧歌的な歌があって、そこにチェロのソロが短く入ります。ソロはとても美しい音で丁寧に演奏されていました。上手です。
再び速い三連符が戻り、牧歌的がもう一度。チェロソロももう一度。その後楽器が重層的に重なっていき、そのまま終楽章に連結します。これはベートーベンの「運命」と同じ展開で、ドラマチックに進んでいきます。シベリウスのべートーベンへのオマージュでしょうか。
終楽章は「運命」同様苦難を乗り越えた勝利の賛歌が高らかに歌われます。聴く者は興奮せずにはいられない旋律です。
長調の明るい曲調は、途中で陰ります。まさに北欧の暗く低い雲が流れていくような上昇と下降の音型がチェロとビオラに続きます。ここでもコントラバスは参加せず、チェロとの使い方の違いが見て取れます。
流れゆく雲の下で、人々の苦悩の時代を振り返るような暗い旋律が木管楽器や弦楽器でくり返されます。そしてそれに打ち勝った勝利の長調に戻って感動的に終わります。
諫早交響楽団の全力での演奏が、その感動をより高めてくれるようです。特にビオラパートは弓を大きく使って、視覚的にも全力さをアピールしてくれていました。
とにかく、生演奏の凄さを今更ながらに堪能できた演奏であることは確かです。音に包まれ、響きに酔いしれるすばらしさを感じさせてくれました。今回もまた超名演を更新したといえると思います。
やはり生演奏いいですね。今回の演奏会は、それを再認識させてくれました。次回は「ブラームスの第1番」とのことで、これまた期待大ですね。楽しみにしています。
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