「雪明かり」読了しました。よかった。藤沢の作品ははずれがないです。
町人、やくざもの、侍、浪人者などさまざまな人々の物語が、秀逸な構成と美しい女子(おなご)の魅力で、どれも輝くような短編に仕上がっています。今回もおもしろいの一言です。
8つの物語
次の8つの物語が楽しませてくれます。それぞれの主人公も上げてみます。
- 恐喝・・・やくざもの「竹二郎」
- 入墨・・・大工「牧蔵」
- 潮田伝五郎置文・・・十七石の軽輩武士「潮田伝五郎」
- 穴熊・・・やくざもの「浅次郎」
- 冤罪・・・部屋住みの次男坊「掘源次郎」
- 暁のひかり・・・元鏡職人今は壺ふりの「市蔵」
- 遠方より来たる・・・足軽「三崎甚平」
- 雪明かり・・・養子「菊四郎」
お気に入り
8編の中で私の一番のお気に入りは、「遠方より来たる」です。
「遠方より来たる」ものは、もちろん友ですね。
妻と小さな娘をもつ足軽の三崎甚平のところに、「揉みあげから顎まで、ふさふさと髭をたくわえている。四十恰好の大男」曾我平九郎が訪ねてきます。ところが、甚平はこの男がいったい誰なのか全然思い出せません。
平九郎が甚平に会ったのは大阪冬の陣の戦場である言われて、ようやく思い出します。妻は難色を示しますが、あまり親しくはないものの遠方より訪ねてきた者を追い返すわけにもゆかず、家に上げます。
平九郎は三崎家の納戸に住み着きます。飯を6杯もお代わりし、聞いたこともないような響き渡る放屁をするなど、平九郎は豪快です。
この物語は、「放屁」に代表されるようにコミカルな味わいが魅力です。
甚平の尻をつねりあげる妻の好江との関係も笑ってしまいます。好江は武士の妻とはいうものの、噂話好きで、町人の女のようでもあり、親しみがわきます。
娘の花江も、「口の端に飯粒をつけ、箸を持った右手を宙に浮かせたまま、平九郎をまじまじとふり仰いでいた」のように、目に浮かぶようにかわいらしく描かれています。
武士の家とはいえ、足軽の長屋はまるで昭和のホームコメディのような気楽な味わいを見せます。
また、大坂夏の陣のような大きな戦の様子が語られるのも、私は藤沢の作品であまり見かけたことがありません。これもおもしろい。この戦の様子も陰惨で無く、むしろコミカルです。
三崎の人の良さとラストの意外な展開も見事です。平九郎の情けない姿があらわになるのですが、それはそれ最後の最後のかっこよさを見せてくれるのも素晴らしい。
いろんな人がいるように、いろんな侍がいるんだなあ。そして、それぞれに懸命に生きていこうとするのだなあ。そんな感慨が心の中にいつまでも残るような名品と思いました。
映画化された「雪明かり」をはじめ、そのほかも絶品ばかりです。いずれも男を主人公としていますが、対になるように最高に魅力的な女性たちが出てくるのが藤沢作品から離れられない麻薬のようなもの。中でも「冤罪」の「明乃」さんは健康的でかつ清楚。惚れてしまいます。皆様、今回も間違いの無い藤沢作品。どうぞ読んでみてください。大オススメです。
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