藤沢周平 著「隠し剣 孤影抄」しびれるエンタメ!大おすすめ

スポンサーリンク

藤沢周平 著「隠し剣 孤影抄」を読んでいます。8編の秘伝の剣をめぐる短編集です。現在6編まで読了しました。

作者の創造した架空の藩「海坂藩」が舞台になっており、そこでの藩の事情が各短編に関わってきます。執念深い藩主・右京太夫や放蕩奉行の掘など、悪役たちの暗い輝きが、それぞれの秘剣の使い手である剣士たちを巻き込み、そしてくっきりと浮き立たせます。

同時に、各編で登場する女たちの何と魅力的であることか。色っぽく、男女の交わりをも想像させる筆は、まさにエンターティメント性も十分に満足させてくれます。

お気に入りヒロイン

私の一番のお気に入りは、最も印象深く、色っぽく、しかし結末は悲しい女性、「隠し剣 鬼の爪」の主人公片桐宗蔵と対決する狭閒弥市郎の妻女です。彼女は夫を救うために、狭間を討つことになった片桐に、逃がしてくれるように頼みに来ます。自分の体を捧げてもと頼みます。美女である彼女に片桐の心は揺らぎますが、断ります。妻女は「では奉行の堀様に頼みに行く」と言います。掘の放蕩ぶりを知っている片桐は止めますが、自分を失っているのか、妻女は掘に体をまかせます。しかし、掘は約束を守りません。夫も助けられず、自分の操も失った彼女は自害してしまいます。片桐はこの妻女の哀れさとともに、友であった狭間を討たねばならなかった無念の怒りをついに爆発させます。静かに一滴の血も出さぬ「隠し剣 鬼の爪」を使って掘の肺をひと突きにします。直接的な性愛シーンなどないのですが、もちろん読者はその脳内で妻女の妖艶なシーンを想像すること必然。悲しくも美しい人妻の姿が描かれるのです。

この「隠し剣 鬼の爪」は、松竹で寅さんの山田洋次監督によって映画化されました。この映画を観ましたが、原作の雰囲気とはかなり違う作品になっています。

 国内の映画賞を独占し、米国アカデミー外国語映画賞にもノミネートされた『たそがれ清兵衛』(2002年公開)に続き、山田洋次が藤沢周平の小説を映画化した本格派時代劇の第2弾である。
 藤沢の人気剣豪小説でもある『隠し剣』シリーズの「隠し剣鬼ノ爪」「邪剣竜尾返し」(『隠し剣孤影抄』収録)と男女の淡い恋愛を描いた人情劇「雪明かり」(『時雨のあと』収録)の3つの短編を基に、東北地方の小さな藩で暮らす秘伝の剣術を習得した武士が、親友の謀反で起こった藩内の騒動に巻き込まれながらも、かつて自らに仕えていた百姓の娘との身分違いの恋に心を揺らされる模様を描いている。

wikiより引用

つまり、この映画は藤沢のいくつかの小説を基にしているために、小説の「鬼の爪」とは全く違う空気が流れることになりました。映画のエンドタイトルでは、「『隠し剣 鬼の爪』『雪明かり』より」と原作が紹介されます。wikiにある「邪険竜尾返し」は間違いではないかと思われます。

samon
samon

「雪明かり」という小説は読んでいないのでわかりませんが、映画版の「鬼の爪」は、片桐と女中の「きえ」の純愛物語になっています。小説にも「きえ」は出てきて片桐と結ばれていきますが、小説では圧倒的に狭間の妻女の印象が強く、対比的に純朴な「きえ」が描かれます。私は、小説が好きだなあ。ぜひ読んで欲しいと思います。

しびれるヒロイン

「女人剣 さざ波」では、藤沢周平はあっと驚く剣客を登場させます。そう女性です。邦江は浅見俊之助の妻ですが、この男、邦江の姉の美しさに惹かれて、その妹を妻にしたという軽はずみなやつ。ところが、姉と違って醜貌ともいえる邦江に冷たく接します。おまけに茶屋通い。その茶屋通いから、藩の抗争に密偵として利用され、終われば冷たく切り捨てられます。さらに、剣豪の遠山左門と果たし合いをするはめになります。すべてを妻の邦江に打ち明けたところ、じっと考えていた邦江は、自らが遠山との果たし合いをすることを決意します。邦江は藩の道場で、男もかなわぬ使い手だったのです。はじめは遠山から「おなごと果たし合いはせん」と断られますが、秘剣「さざ波」を邦江が伝えられていることを知ると、興味をもち戦うことになります。「さざ波」が繰り返し当たることで岩にも穴をうがつようなその戦いは、藤沢の冴え渡る筆致で、読む者を捕らえて放しません。また、夫の冷たい仕打ちにもじっと絶えていた邦江が、その夫のために命を賭して戦うその生き様にしびれてしまいます。

samon
samon

本短編集は、このように主人公の男性の強さかっこよさを描きつつも、そこに大変魅力的な女性キャラクターをおくことで、物語を超一級のエンターティメントとして結実させています。さあ、あと残り2編。どんな秘剣が待っているのか、どんなヒロインが登場するのか楽しみでたまりません。ぜひ、お読みください。大おすすめです!

コメント

タイトルとURLをコピーしました