河瀬直美監督・脚本・編集「あん」樹木希林最後の主演映画 閉じ込められた人々の自由を求める叫びを静かに描く

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長崎市立図書館蔵DVDです。地味そうな題名ですが、河瀬直美監督に惹かれて借りました。予想を覆す展開に驚きます。

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結論

樹木希林の最後の主演作にして、彼女の演技の頂点。実の孫内田伽羅の存在も初々しく新鮮。生きにくさ不自由さを感じているすべての人に福音となる作品。オススメ!

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概要・あらすじ

ドリアン助川の同名小説「あん」を、世界を舞台に創作活動を続ける監督・河瀨直美が映画化。日本を代表する女優・樹木希林をはじめ、抜群の演技力で独特の存在感を放つ永瀬正敏、樹木の実孫である新星・内田伽羅(うちだきゃら)や、芸歴50年を超えようやく樹木との共演が実現した市原悦子など、豪華キャストで贈る、心揺さぶる作品がここに誕生した。

公式HPより引用

スタッフロールに横文字(外国語ね)が並ぶと思ったら、この作品日本・フランス・ドイツの合作映画でした。純粋に日本的な映画のようだし、外国人キャストも皆無。なぜ合作?と思います。河瀬監督は次のように語っています。

今、同席しているMK2のジュリエットさんには『2つ目の窓』(2014)、『あん』(2015)、『』(2017)のワールドセールスを担当していただきました。そうしてフランスの会社がわたしの作品を選出してくださったり、紹介してくださるという体制をずっと取っています。ワールドセールスカンパニーという存在のおかげで、自分の映画が島国の日本から世界へ行くという経験です。日本映画というのは、日本の国の中だけで興行が成立しているというのが現実です。けれども、そこから日本独自の文化を、映画を通して世界中の人に観ていただける場をお手伝いしてくださっているのが、フランスの方々なのです。

ネットより引用

フランスという国は、他国のよりよき芸術文化を取り入れようとする気風があるのでしょう。すばらしいことだと思います。そして、合作という形で芸術文化の再作側としても支援しようとしているのでしょう。見習いたいものです。映画作品を興行として考えるだけではないという気高い思想を感じます。

あらすじ

縁あってどら焼き屋「どら春」の雇われ店長として単調な日々をこなしていた千太郎(永瀬正敏)。そのお店の常連である中学生のワカナ(内田伽羅)。ある日、その店の求人募集の貼り紙をみて、そこで働くことを懇願する一人の老女、徳江(樹木希林)が現れ、どらやきの粒あん作りを任せることに。徳江の作った粒あんはあまりに美味しく、みるみるうちに店は繁盛。しかし心ない噂が、彼らの運命を大きく変えていく…

公式HPより引用
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感想

冒頭の桜、朝日、秋の全生園の森のようすなど、東村山ロケによる自然描写がとても美しく切り取られています。主人公達の閉じ込められた生活と対比的に描かれています。ゆえに双方が際立つ。対比表現の重要性を感じます。

千太郎とワカナのバックグラウンドは明確には語られません。しかし、彼らを取り巻く人間達の傲慢さやだらしなさで、彼らがおかれた不自由な境遇が分かる構造となっています。千太郎の場合、店のオーナー(浅田美代子)の自分勝手な態度。これがとても腹立たしい。しかし、千太郎は何も言い返すことができません。

ワカナの母親(水野美紀)は2カットくらいしかないのですが、ベランダで男にでれでれ電話して、傍らに缶ビール、そして振り返った瞬間タバコの火が暗闇に光る、たったそれだけの表現で、もうだらしない母親を強烈に感じ取らされてしまう。映像表現のパワーを認識させられます。

樹木希林の演技は、その自然さペーソス、かわいらしさ、あんを作るときの真剣さ、それらすべてが究極的に見事で舌を巻きます。最後の主演作でまさに頂点を極めたといえるでしょう。

自然に耳をすませ、自然の声を聞いてあげることの大切さを訴える樹木希林の言葉が心に刺さります。

「私たちはこの世を見るために、聞くために、生まれたきた。この世はただそれだけを望んでいた。・・・だとすれば、何かになれなくても、私たちには生きる意味があるのよ」

今、生きにくさや生きることに苦しみを感じている多くの人々にとって、この言葉はどれだけ救いとなることでしょうか。千太郎もこの言葉で表情と生き方を変化させていきます。エンディングの「どら焼きいかがですか!」の元気な声が、力強く生きていくであろう彼を想像させ、希望に満ちた終末となって映画の読後感をとても幸せなものにしています。

ハンセン病という題材は「今頃?」と一瞬ハッとしますが、カネミ油症にしろ水俣病にしろ原爆症にしろ、忘れがちになる私の背中を叩いてもらったような気がします。「終わったわけではないよ、なくなったわけではないよ」と。

老女と中年男という絵柄に、さわやかさをもたらす重要な役がワカナ(内田伽羅)です。14歳の彼女の演技は素人っぽさは否めませんが、独特の存在感があり彼女でよかったと納得させられます。樹木希林の実の孫、つまり希林さんの娘、内田也哉子さんと本木雅弘(もっくん)の子。内田裕也の実の孫でもあるのですね。もうばりばりのサラブレット。そのパワーなのでしょうね。

河瀬直美監督

大阪写真専門学校(現・ビジュアルアーツ専門学校)映画科で、「私が強く興味をもったものを大きくFixできりとる」(88)など8作品を制作する。卒業後、ドキュメンタリー「につつまれて」(92)、「かたつもり」(94)で山形国際ドキュメンタリー映画祭国際批評家賞などを受賞。劇映画デビュー作となる「萌の朱雀」(97)でカンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を受賞。以降、「殯(もがり)の森」(07)がグランプリに輝き、2009年には同映画祭に貢献した監督に贈られる黄金の馬車賞を女性、およびアジア人として初めて受賞。その後も「朱月(はねづ)の月」(11)、「2つ目の窓」(14)、「光」(17)がコンペティション部門、「あん」(15)をある視点部門に出品し、カンヌとは縁が深い。劇映画を手がけるかたわらドキュメンタリー作品も撮り続け、自身の出産後は「玄牝 げんぴん」(10)など出産をテーマにした作品を発表している。また韓国の新鋭チャン・ゴンジェ監督の長編第3作「ひと夏のファンタジア」(14)ではプロデューサーを務めた。

有名な「萌の朱雀」も「殯(もがり)の森」も未見です。本作「あん」が河瀨監督初体験となるのかな。ずっと気になる監督ではありました。縁がなかったのです。

本作で彼女の実力は十分わかりました。過去作も観たいし、今後も注目したい監督さんです。

samon
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川瀨直美監督作品との出会いに感謝。そして、稀代の名女優貴樹木希林に感謝。そして冥福をお祈りします。心に残る本作をぜひ御覧ください。オススメ!

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