幸福の土台の3つの資本でとても納得できた前著に連なるダイヤモンド社刊の書籍。幸福につながる実践編。
結論
著者の博覧強記な知見がこれでもかと提示され、結論がシンプルにすーっと入ってくるわけではないが、知的な興味は十分に満たされ、その多くの知見の中から主張を探すおもしろさもあります。
概要
「日本人は合理性を憎んでいる。だからこそ、合理的に生きることが成功法則になる!」 前著『幸福の「資本」論』で幸福を3つの資本で定義づけた橘玲氏が、「人生の成功法則」について「合理性」を軸に3つの資本を再検証。最新の学術的知見を織り交ぜなら、現代人が「自由に生きる」ための理論、手段、実践を突き詰める。
google booksより引用
感想
幸福の土台となる3つの資本は「金融資本」「人的資本(かせぐ力)」「社会的資本(仲間との関係)」です。
金融資本の戦略
株式市場などでの素人である私たちの「金融資本」における戦略は「インディックスファンドを長く保有すること」と捉えました。
印象深い言葉に「資産運用でもっとも大事なことは資産運用を考えないこと」があります。資産を最も増やした人が「死んだ人」や「忘れていた人」と言われるのは有名です。
資産運用を始めると、インディックスファンドは退屈なので、つい他に手を出してしまいます。結局これはコスト負けして資産を減らすことになることは自明なのでしょう。でも、つい面白そうな方に手を出すのも人間かな。「お楽しみ枠」で私もやってます。
人的資本の戦略
デリヘルドライバーになったバイオリンの天才児の話は印象深いものでした。中学生でバイオリン日本一になった風見は言います。
「才能ていうのは努力の上に成り立っているんです。才能を獲得し維持するには、とてつものない壁がある。その壁を突き破るためには、人間の限界を超える努力が必要なんです。逆にいうと、そんな尋常ならざる努力のできる人、それが天才なのかも知れない。」
モーツァルトも尋常ならざる努力をしたのでしょうか?書き直しの無いスコアはそうは思えないのですが。
リベ大の両学長がよく引くイチローの言葉に「小さなことを積み重ねることが、とんでもないところへ行くただ一つの道」があります。天才で無くとも、好きなことを日々こつこつ積み上げていくことは私にもできるかもしれません。
それがちょっと楽しければ最高。橘氏も章の最後にやさしいことばをかけてくれます。
「覚えておいてほしいのは、『ゆっくり成功すればいい』ということだ」「大事なのは『若くして成功する』ことではなく、『人生の最後に成功する』ことなのだ」
日々ちょっと楽しい努力を積み重ね人生の最後に「おもしろかったな」と言いたいですね。
社会的資本の戦略
徹底的に社会的な生き物である人間。定年後1年間ぶらぶらしたときにこのことは痛感します。半年ほどは気楽な自由生活を楽しめます。ところがそれがつまらなくなる。これまで職場で様々な人と手を取ったりぶつかったりしていたことがいかに大切だったかよく分かりました。
さて橘氏はこの社会的に人と関わるという「社会的資本」をどう戦略的に実践しようとするのでしょうか。
誰にも1日は24時間。この資源は変わりません。そこで、有限の資源を投入できる人間関係の対象には限りがあると言うこと。誰とつきあい誰と離れるかを選択しなければなりません。
友達は似た人になる。つまり「類は友を呼ぶ」。自分の友人を想起してみるとそれは納得がいきますね。極端に自分と異なる、私の場合は非常に外交的な人は友人にいないように思えます。
著者は瀧本哲史氏の「友達から仲間へ」の論を引きます。
「友だちとは、愚痴を聞いてくれたり、夢を語り合ったりする関係だ。それに対して仲間(チーム)は、ミッションに向けて協力し合い、ともに夢を実現する関係ということになる」
「最高のチーム」に参加したときに出会うのは、「友だち」ではなく、大きな人的資本と高い評判をもつ「仲間」だとし、そんな仲間を作るための方法を提案しています。
それは「テイカー(もらう人)」から「ギバー(与える人)」に変わりなさいということ。これはよく言われていることですが、著者のいう与える対象が「おもしろい情報」と「面白い知り合いを紹介すること」というのが新しい。
この二つは与えても減るものではないということ。いくらでも人に与えていいというわけです。むしろ「どんどんつながり(ネットワーク)が大きくなる」と提案します。これはなるほど!ですね。
章の最後に次のようにまとめます。
「労働市場が流動化した新しい世界では、わたしたちはギバーとなってネットワークをつくりつつ、ギグのためのアドホックな(その場かぎりの)仲間を募って、人間関係のコストを最小化しようとするだろう。それによって浮いた時間資源は、家族や恋人との小さな愛情空間に注ぎ込むことができる」
著者の多くの知見がちりばめられており、一見結論がわかりにくく感じますが、これが著者のスタイルであり今回もおもしろく読めました。ぜひ読んでみてください。オススメ!
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