
次々に新著が出る橘 玲の新書新刊。博覧強記の著者が今度は何を教えてくれのか。
結論
知らなかったことのオンパレード。来たるべきディストピアを生き抜くのは富より評価。
概要
ふつうに生きていたら転落する。知識社会化が進み、人生の難易度がますます上がっていくーー。残酷な「無理ゲー社会」を攻略するためのたった一つの生存戦略とは?才能のある者は人生を攻略(HACK)し、才能のない者はシステムに搾取(HACK)される。常識やルールの「裏道を行け」!
googlebooksより引用
感想
史郎正宗の「攻殻機動隊」は、脳以外は作り物の身体の主人公草薙素子らが活躍するコミックです。作り物の身体ゆえ、その能力は拡張されていて、アニメ版の屋上から飛び降りる印象的なシーンは、生身の身体では自殺そのものです。
本書の第4章「自分をHACKせよ」の終わりあたりに、草薙のように全身とはいかないものの、現在実現している身体の拡張の記述があり、興味深く読みました。
聴力を拡張して、普通人間には聞こえない周波数の音まで聞こえるようになる。あるいは、網膜を拡張して、通常見えない色が見えてくる。磁覚という磁力を感じる力をもつようになる可能性を、「脳の可塑性」に求めます。それは人間を超えた人間「超人間」であると。
ゲノム編集という言葉はすでに一般的になっていると思いますが、このDNAの編集が進んで、映画「ガタカ」で描かれたような人工授精と遺伝子操作によって優れた知能・体力・外見をもつ「適正者」と自然妊娠で生まれた「不適正者」に分断する力を十分にもっている、と予言したのは「サピエンス全史」の著者ユヴァル・ノア・ハラリです。橘も不気味な予言だと言います。
このディストピアを生き抜くために著者はいくつかの例をそれを実践した人を紹介しながら述べていきます。まずミニマリズムとFIRE(経済的独立と早期退職)。両者が融合したFIミニマリズム。さらにはデジタル・ミニマリズム。
効果的な利他主義というエビデンス(実証)のある寄付活動の実践者として、バンクマン=フリード(Tシャツと短パンでシェアルームに住む大富豪)や仮想通貨イーサリウム開発者のブテリンが紹介されます。彼らは質素な暮らしをしながら、「世界を変える」ために慈善団体にせっせと寄付をしています。
岡田斗司夫がこれからは「評価経済社会」になると予想しています。本書でも「一人一人が『評価』をもち、それがSNSで可視化されるようになれば、会社のような組織に所属しなければならない理由はなくなっていく」と橘は述べます。
「富から評判」へのパラダイム変化が始まっており、それがどのような未来を築くのかは「誰も知らない」と謎をかけて本書は閉じられます。

今回も知らなかったことがこれでもかと紹介され、読者は唖然としてしまうわけです。それでも読後には、巨大な革命が起ころうとしていることが察せられ不安にさせられました。しかし、おもしろさにページを繰る手は止まらないのです。恐ろしいけれど超オススメ。
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