森田芳光監督作品「武士の家計簿」加賀藩の御算用者(経理係)を代々勤める猪山家のそろばん侍の物語 実在の猪山家の詳細な入払帳(家計簿)から見えてくるもの

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samon
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「無私の日本人」と一緒に読んでいる「武士の家計簿」。そういえば映画化されていたと思い出して、図書館からDVDを借りて観てみました。大好きな監督の森田芳光作品ではないですか。その美しい映像の中に、私たちがあまり知らない武士達の生活が描かれていきます。

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結論

侍の映画と言えば、剣と剣の壮絶な戦いに胸躍らせますが、この作品は全く違う面から侍の暮らしや経済状況、子供の教育、そして侍が大事にしていたものが見えてきます。侍は親戚づきあいと見栄が重要だったのです。

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あらすじ

時は江戸時代後半。
御算用者として、代々加賀藩の財政に携わってきた猪山家。
8代目の直之(堺雅人)は、天性の数学的感覚と働きぶりが評価され、その姿は周囲から『そろばんバカ』と呼ばれる程、職務に忠実、野心も持たず、日々数字合わせの日々に没頭していた。

直之を案じて町同心・与三郎(西村雅彦)が、娘お駒(仲間由紀恵)との縁談を持ち掛ける。
直之は、自分は不器用で、出世も出来そうもない、そろばんしか生きる術はないと、お駒に言う。
お駒は、そんな直之を気に入り結婚する事に。

御蔵米の勘定係に任命された直之は、飢饉で苦しむ農民へのお救い米の米の量と供給量が一致しないのは、役人が私服を肥やしているからだと、そろばん1つで暴く。
直之は役人の逆鱗にふれ、左遷されるものの一派の悪事を暴いた事で、異例の奨励を遂げる。

だが武家は昇進すると出費が増えた。
猪山家は、直之の父・信之(中村雅敏)が江戸詰で重ねた借金もあり財政難だった。
それだけでなく、直之の息子、直吉(大八木凱斗)が4歳になる、袴義の祝いも開かれる予定だった。

猪山家の借金総額は6000匁。
直之は、家計を立て直す為に、想定外の計画を練る事になる・・・。

ここから引用
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侍の姿

侍は冠婚葬祭や親戚ごとを重要視したことが見えてきます。なぜなら、いざというときに助けてくれるのは親戚しかいないからです。長男は家を継ぎますが、次男三男あるいは娘は嫁取りをしたり嫁入りをしたりするわけです。このときに口をきいてくれるのは、親戚ということです。

よって、親戚とのつきあいや冠婚葬祭では、鯛の尾頭付きを出して、盛大に祝います。そこには大きな出費がついてくるというわけです。

加えて、江戸付きになると、そちらで生活するためのお金も必要になります。主人公猪山直之(堺雅人)の父信之(中村雅俊)は姫様の江戸への輿入れの際の会計係をおおせつかり、門を赤く塗る際の節約の話をいつも自慢話としてします。現在の本郷、東大の赤門のことです。父は江戸付きとして名誉な仕事をしたわけですが、お金の負担は大きかったわけです。

金が足りなくなると、借りねばいけません。猪山家も、商家や親戚、藩からの借入金で破産寸前になり、直之はこれを立て直すために、家財道具をすべて売ってしまうという作戦に出ます。息子の元服の祝い事の際には、鯛が出せないので、鯛の絵をつけた他の魚をだすということも行います。見栄のために家計がつぶれることをよしとしなかったのですね。

父の信之は絵の鯛のことをたいそう恥ずかしく思います。武士にとっての見栄の重要さが伝わります。その見栄を押さえて家計の再建をした直之の革新性を感じますね。

教育

算用者の家系である猪山家では、息子にそろばんの教育を始めます。教えるのはもちろん父です。子と問答をしながら教えます。読み書きも父が担当します。この映画の中では、いわゆる学校的なものは描かれていません。算用という特殊な技能ゆえかもしれませんが、猪山家では家庭教育です。父が師であり親方であるわけです。

現代では、教育は学校に任せてしまいます。効率的に一定水準の教育を施すのに学校は有効と思われますが、その分子供の教育について、家庭での父の立場は俄然薄くなってしまいます。子の父への尊敬も当然同じでしょう。

子が大人となった今では、この子に何を教えてこれたかな・・・と、寂しい気持ちになります。直之と息子のような、強く太い絆がうらやましく思えてきます。

森田芳光

森田 芳光(もりた よしみつ、1950年1月25日 – 2011年12月20日)は、日本の映画監督脚本家

1981年に『の・ようなもの』で、長編映画監督デビューした。以降、シリアスなドラマから喜劇、ブラックコメディー、アイドル映画、恋愛映画ホラー映画ミステリ映画と幅広いテーマを意欲的に取り扱い、話題作を数多く発表した。

wikiより引用

先日「森田芳光全監督作品コンプリート」というBDボックスが発売されました。残念ながら「そろばんずく」だけが版権が取れず収録されていません。生涯で商業映画だけでも27本。しかも、上記引用のように様々なジャンルを撮り続けた、まさに鬼才の監督でした。

61歳でC型肝炎により亡くなりました。早かったですね。

私の好きな作品は「の・ようなもの」それから「(ハル)」はよかったですね。今回ラインナップを見るに、まだ鑑賞してない作品も多いので、これから少しずつ観ていきたいです。

「の・ようなもの」のラストで主人公の「しんとと」が、彼女の家を飛び出し、一晩中つぶやきながら東京の町を歩いて行くシーンは忘れられません。「(ハル)」の深津絵里もかわいかった。

この森田監督が亡くなる1年前に発表したのが「武士の家計簿」です。遺作の一つ前の作品となります。監督の作品リストを見ていると、すべての作品で監督と脚本を担当しています。映画における脚本の重要性を強く感じていたことがわかりますね。

「武士の家計簿」は原作が新書による教養書(磯田道史著「武士の家計簿―「加賀藩御算用者」の幕末維新―)です。物語ではないんですね。この新書本を物語に組み上げるのが脚本の仕事と言うことになります。そろばん一つで家族を守り、そして子供を育て上げた侍の物語に見事に結実させていると思います。これも森田芳光の手腕と言えるでしょう。

samon
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原作の新書も本当におもしろく、映画と両方で相乗的におもしろさが高まるようです。藤沢周平の剣客物も大好きな私ですが、今回の映画と新書で、生身の武士の姿が感じられました。皆様も機会あれば楽しんでみてください。前にブログで書いた「殿 利息でござる!」の原作である「無私の日本人」もとてもおもしろく、武士以外の日本人の大切にしていたものがわかります。現代の日本人から消えつつあるものが見えてきます。

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