藤沢周平著「風雪の檻 獄医立花登手控え2」の「幻の女」は染みる物語でした。一度は悪の道に手を染めた巳之吉は自力で足を洗い立ち直っていたが、昔の悪い仲間が現れ、その仲間を殺してしまったことにより、島流しが決まっている。巳之吉は島に行く前に、若い頃自分を慕ってくれたであろう女、おこまが今どうしているのかを調べてくれないかと登に頼む。ある日いなくなったおこまを登は探し始める。人間のすれ違いと登の情に、じんと来てしまう一編だ。男の心の中には、だれしも一人は「幻の女」がいるのかもしれない。その女の幸せをいつまでも願ってしまうのである。それが男という生き物だろう。
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