平野啓一郎原作 妻夫木聡主演「ある男」過去を捨てて別の人間としていきなければならない男の苦悩を重層的に描く

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amazonプライムで配信中の妻夫木聡・安藤サクラ・窪田正孝主演の作品。はたして。

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結論

柄本明の快演をトピックに、各役者がいい仕事をしています。今の自分でない自分を生きるという誰もが考えたことのある問題に深く切り込んでいきます。

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概要・あらすじ

2022年11月18日に公開された映画「ある男」は、芥川賞作家・平野啓一郎の小説を原作としたヒューマンミステリーです。監督は石川慶、主演は妻夫木聡が務めました。

映画は、亡くなった夫の身元調査を依頼された弁護士が、その正体を追い、真相を突き止めようとする姿を描いています。

キャストには、妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝、清野菜名、眞島秀和、小籔千豊、柄本明らが出演しています。

映画は、第46回日本アカデミー賞で最優秀作品賞ほか多数部門において最優秀賞を受賞しました。

生成AI

弁護士の城戸(妻夫木聡)は、かつての依頼者である里枝(安藤サクラ)から、亡くなった夫「大祐」(窪田正孝)の身元調査という奇妙な相談を受ける。 里枝は離婚を経て、子供を連れて故郷に戻り、やがて出会う「大祐」と再婚。 そして新たに生まれた子供と4人で幸せな家庭を築いていたが、ある日「大祐」が不慮の事故で命を落としてしまう。 悲しみに暮れる中、長年疎遠になっていた大祐の兄・恭一が法要に訪れ、遺影を見ると 「これ、大祐じゃないです」と衝撃の事実を告げる。 愛したはずの夫「大祐」は、名前もわからないまったくの別人だったのだ‥‥。 「大祐」として生きた「ある男」は、いったい誰だったのか。 何故別人として生きていたのか。 「ある男」の正体を追い“真実”に近づくにつれて、いつしか城戸の心に別人として生きた男への複雑な思いが生まれていく―――。

ネットより引用
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感想

出戻りの里枝が、実家の文具店を手伝う冒頭で、ペンを直しながら口をゆがませ涙がひとしずくこぼれる映像で、現在の彼女の不幸せな状況を表現します。安藤サクラの演技力を最初からぶつけられるわけです。

そんな里枝に恋し、何度も通ってくる大祐(窪田)の無口なシーンは、「幸せの黄色いハンカチ」での倍賞千恵子がレジで働いているスーパーに何度も通ってくる高倉健を思い出させます。倍賞が独身と知って浮かれる高倉がかわいらしく思えますが、大祐は常に不気味な印象をまとっています。

大祐の稚拙な水彩画を見れば、絵が趣味と言うより、里枝に会うために絵画用品を購入したのではないかと思いましたが、後にそうでないことがわかります。それにしても父親ゆずりの才が感じられない水彩画でした。最後のページの肖像を除いては。つまり、わざと稚拙に水彩画を描いていた節がある。

この映画の出色は、柄本明の怪演です。詐欺で服役している柄本に妻夫木が会いに行く。「羊たちの沈黙」でのクラリス(ジョディー・フォスター)がレクター博士(アンソニー・ホプキンス)に捜査のヒントをもらいに行くのに似ています。

レクターがクラリスを信頼するのと違って、柄本は妻夫木が在日であることを見抜き、徹底的に差別します。しかし、妻夫木の心の奥底の隠したい部分をあぶり出す機能としての柄本は、クラリスの同様に隠したい深層を浮き上がらせるレクターと共通です。

映画のラストはバーの中で妻夫木と男が語りあうシーンです。原作ではこれは物語の冒頭に置かれています。男は小説の作者であり、バーで出会った妻夫木の語る物語を聴いた体で、小説を開始しているわけです。物語の開始としてすぐれていると思います。

これをラストに置く意味は、妻夫木自身も自分を偽って生きる生き方を欲しているということを観る者に感じさせることでしょうか。自分と違う人間として偽ったことが私もあります。キャバクラのお姉ちゃんとの会話の時でしたが、医者のふりをしたことがあります。そのときは酒も入っていい気分でやったことでしょうが、あとで嫌悪感を感じたように思います。

現在の状況が悪ければ悪いほど、他人になりきって相手に対する行為はある種の慰めになるのかもしれません。まあ、大きな影響がない相手の範囲ではありますが。

大祐の場合は偽る相手が結婚相手になっているわけですからおおごとです。覚悟と追い込まれている状況があったに違いありません。その秘密が明らかにされていくのがこの映画となります。

本物の谷口大祐に扮するのは仲野太賀です。何と台詞がひとつもありません。声を聞くことがないわけです。仲野にしゃべらせなかったために、彼の明るく元気な印象は発揮されません。家族にのけ者にされた老舗旅館の次男坊の不幸を表情で表現することとなります。

大祐の元恋人役美涼(みすず)を演じるのは清野菜名です。彼女の透明感が大好きです。今回はスナックのホステス役で濃い化粧で登場しますが、発する清らかさはかわりません。本物の大祐に近づく大きなヒントとなるのが彼女の役所です。城戸(妻夫木)が美涼に少し惹かれる描写も原作には見られます。そんな好ましい女性を清野は好演しています。

samon
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現在原作本を読んでいます。久々に読む純文学です。とても読みやすく、こんな世界もよいなあと思います。映画・原作ともぜひ御覧ください。

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