山田洋次監督作品「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」(BSテレ東)を観ました。シリーズ第11作。その後幾度かシリーズに登場する大事なキャラクター「リリー(浅丘ルリ子)」が初めて登場する作品です。
初夏の北海道・網走の町で場末の歌手「リリー」と寅は出会います。根無し草のような生き方のリリーを見て、自分のそれと似たものを感じる寅。リリーはこう言います。
「私たちみたいな生活って、普通の人とは違うのよね。
それもいい方にじゃなく、なんてのかな、あってもなくても
どうでもいいみたいな。つまりさ、あぶくみたいなもんだね」
寅はユーモアを交えて返します。
「風呂の屁じゃないけど、そのあぶくは前じゃ無くって、背中の方に上がっていってはじける」
今回の寅のリリーへの思いは、これまでのものと違って単なる「恋」を越えた共感があります。それは、この出会いのときにつくられたものなのでしょう。その後、荒れるリリーに対し包み込むような情で向かうところでは胸を打たれます。
リリーを迎い入れるとらやの面々の優しさはいつもどおりです。特に2代目おいちゃんの松村達雄のさりげなさは憧れてしまう。ほとんど台詞無くおとなしい満夫役の中村はやとくんは、リリーからキスをされる役得ですが、彼は2作目から26作目まで出演している立派なとらやのメンバーなのですね。
映画のラストで、リリーは寿司屋の主人と夫婦になっています。寿司屋を訪ねたさくらに、「本当は寅さんが一番好きだった」と言います。冗談めかして言いますが、これはリリーの本音だったのでしょう。リリーは第15作25作48作49作でも出演します。さらに、最新作50作目でも寅とは会うことはありませんが、やはり重要な役で登場するのです。「男はつらいよ」シリーズにおけるキーウーマンとしての彼女は、単に寅が惚れてしまうマドンナという存在を越えて、寅と重なる鏡のような存在なのかも知れません。だから、寅が登場しない第50作に欠かせなかったのでしょう。
最初の登場作で、リリーの登場の際のメロディはいつもとても悲しいのです。このシリーズが、その底流に根無し草の人生の哀しみが流れていることを感じさせられるのです。
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