宮部みゆき著「堪忍箱」読了しました。これまた素晴らしき時代短編集だ。市井の人々が主人公の物語は、強い侍も、回向院の茂七のような岡っ引きも出てこないが、江戸の町で確かに生きてきた名も無き人々の喜び哀しみを、私たちの心にくさびを打つように描き出してくれる。その筆力、ストーリーテリング力には脱帽である。表題作「堪忍箱」は、その箱の中身はとうとう明かされないが、箱を取り巻く人々の人生が江戸の華「火事」の中で非常に映像的に描かれる。最終作「砂村新田」は忘れられない一作である。お春とその家族や彼女を取り巻く人々の細やかな心情が、そぼ降る梅雨や肌焼く夏の日差しの中で絶妙に描かれていく。一瞬しか登場しない市太郎の姿がどうして忘れられずこんなに立ち上がってくるのだろうか。全体に暗くうら寂しいのは宮部作品の真骨頂だが、宮部ワールドに入ってしまったら、もう逃げられないのだ。さて、次は何読もうか。
コメント