
第2巻は喜多次活躍少なくがっかりしたが、はたして3巻はいかに?
結論
喜多次出番多し。北一トレーニング開始、ラストアクションでキック炸裂。全体にゆったりした物語展開だが満足度高し
概要・あらすじ
万作・おたま夫婦が継いだ千吉親分の文庫屋が、放火により火事になった――。
下手人は、台所女中のお染だというが、親分の家でお染に世話になった北一は信じられず、その疑いを晴らすべく奔走する。
さらに、焼け出された人たちが過ごす仮住まいでも事件が起きていた……。
そんななか迎えた新しい年。北一は、ある事をきっかけに、三十年近く前に起きた、貸本屋・村田屋治兵衛の妻殺害事件の真相を明らかにしようと決意する。もちろん、湯屋の釜焚きをしている相棒・喜多次の協力は欠かせない。二人は、この難事件を解決することができるのか。
「ぼんくら」シリーズ(講談社文庫)の人気キャラクター「おでこ」も、二人を助けてくれる存在として登場。
岡っ引き見習いの北一と、謎多き相棒・喜多次の「きたきた」コンビによる物語で、著者が「作家生活三十五年、集大成のシリーズ」と位置付ける時代ミステリー第三弾!ネットより引用
感想
480ページの分厚さの中で、北一と喜多次を中心とした活躍がゆっくり大河のように流れていく印象です。題名の「気の毒ばたらき」と「化け物屋敷」の2話の構成です。
「気の毒ばたらき」とは不思議な話名です。端的にいうと、火事で焼き出された人々が避難しているところへ、手伝いのようにやってきて避難者の財産を盗む犯罪のことです。
「火事とけんかは江戸の華」というくらい江戸では火事が多かった。なにせ良く燃える「木と紙」で住宅ができているわけですからね。NHKBSドラマでも人気の「あきない世傅金と銀」原作を読むと、もう何度も火事のシーンが出てきます。特に芝居小屋が燃えては再建をくり返す江戸っ子のエネルギーは印象的です。
しかし焼け出された人々が落胆しているのは当然のこと。その人々のなけなしの財産を狙う「気の毒ばたらき」は憎むべき行為と思われます。
シリーズ前巻の「子宝船」では謎の風呂釜焚き「喜多次」の活躍が少なかったのが不満でした。それを取り返すように今回は喜多次は全編に渡って登場します。
気の毒ばたらきの事件も喜多次の風呂屋を舞台に解決に向かっていきます。本作ではこの風呂屋の釜焚き場での北一と喜多次のシーンがとても多い。ここでの北一のトレーニングの様子は印象的。北一は暴漢にノックアウトされ、自らの弱さを強烈に自覚します。そこで喜多次に鍛えてくれるよう依頼するのです。
トレーニング方法は真っ黒な古木材に鉋(かんな)を掛けるというもの。鉋かけで身体はスクワットをしている状況と同じです。徹底したスクワット運動をしているというわけです。
このトレーニングが実ったのか、第2話「化け物屋敷」の大団円では北一のキックが敵を倒します。胸躍るアクションシーンは宮部小説では珍しいのではないでしょうか。
「化け物屋敷」では、二匹の犬の登場もいいですねえ。その姿そのままの名前を喜多次につけられた「シロ」と「ブチ」が活躍します。二匹の犬を捜査の仲間と位置づけているのもいい。二匹の犬は道具ではないのです。
「ラストマイル」という映画が高興行収入を達成しました。TVドラマでヒットした「アンナチュラル」と「MIU404」の世界観や登場人物が「ラストマイル」と重なってくるという「シェアードユニバース」手法がとられています。

この方法は宮部みゆきは以前から使っていますが、本作でも「ぼんくら」で子どもだった人間コンピュータ「おでこ」が大人になって登場します。「子宝船」でも出てましたね。
「桜ほうさら」の「富勘長屋」に北一は住み、この本の中の未解決事件が「化け物屋敷」と関わっています。このように宮部みゆきは昔から「シェアードユニバース」を実践しており、それを追うのもひとつの楽しみにもなっています。

480ページの紙幅を使って2話の物語をゆったりと語り、その中に下町の人情を描きながら拐かしのおぞましい事件とスピード感増すクライマックスであっという間に読ませてしまう宮部マジックを堪能できます。超オススメ!
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