高田郁著「みおつくし料理帖 心星ひとつ」を読んでいます。第二話「天つ瑞風」では、澪は大きな選択を迫られる。料理人の腕を見込まれた澪には、吉原に店を構えないかという話と、ライバル店「登龍楼」が神田須田町に出していた店舗を居抜きでしかもたった30両で買わないかという2つの提案がなされる。周囲の者は、自分の利を度外視した、他人の幸せを願う選択を進めてくる。これが現代ではありえないことで泣かせる。澪の心は乱れる。さらに、名店「一柳」の主人からは「与えられた器以上には成長しない。今の店ではだめだ」という言葉を吐かれ、その言葉は澪の胸を刺す。迷いを解決してくれたのは、老女「りう」である。「与えられた器以上には大きくなれないだなんて、一柳の主人もまだ若いね。どんな場所であろうが、精進すれば自分で器を大きくできるんだよ」その言葉で澪は心を決める。小さな店「つる屋」で、お客の幸せそうな顔を見ながら、精進を重ね自分の器を自分で大きくすることに。
自分もまもなく職に一息をつくことになる。生涯ヒラで終わりそうだ。確かに、立場がその人を育てると言うことは事実であろう。重責のある立場になれば、その人を成長させることは間違いない。しかし、その立場になれなかったとしても、なんら卑下することはない。このエピソードはそんな勇気と矜恃を与えてくれる。一介のヒラであっても、一つ一つの仕事に全力で向かってきたのだ。偉くなった者と自分と引き比べる必要はない。そんな豊かな心にさせてくれる珠玉の一編なのである。
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