上野通明チェロ・リサイタルを聴く 新しい名チェロプレーヤーの登場

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上野通明(うえのみちあき)チェロ・リサイタル(NHK-BSクラシック倶楽部)を聴きました。

先日「奇跡のチェロ・アンサンブル」のブログを書きましたが、彼もこのメンバーであり、そしてどうも6人を招集したのが彼のようなのでした。この演奏のすばらしさは、以前書いたとおり。

今度は、その上野の単独のリサイタルです。

samon
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まず、選曲のセンスの良さを感じます。どの曲も知らない曲。ですが、どれも素晴らしい曲。演奏の良さでしょうか。

上野通明のプロフィールから御紹介しましょう。

パラグアイ生まれ。5歳よりチェロを始め、幼少期をスペインで過ごす。

2021年、ジュネーヴ国際音楽コンクールのチェロ部門で、日本人として初優勝。そのほか、09年若い音楽家のためのチャイコフスキー国際音楽コンクール優勝、10年ルーマニア国際音楽コンクール第1位、12年東京音楽コンクール第2位、14年ヨハネス・ブラームス国際コンクール第1位、18年ルトスワフスキ国際チェロコンクール第2位ほか、数多くのコンクールで優勝、入賞を果たす。11年岩谷時子音楽文化振興財団「Foundation for Youth賞」。15年第6回岩谷時子賞奨励賞。16年青山音楽賞新人賞受賞。

TOPPAN HALLのサイトより引用

すごい受賞歴もですが、私は最初の行の「パラグアイ生まれ、スペイン育ち」は、彼の音楽性にきっと何かを与えているのではないかと根拠もなく推察します。彼の音楽には、そんなワールドワイドな感性が感じられます。

演奏曲をみていきましょう。

J・S・バッハ作曲 ビオラ・ダ・ガンバソナタ第2番 ニ長調 BWV1028

ビオラ・ダ・ガンバはバイオリン族によく似た楽器ですが、立てて演奏する様式です。

ヴィオラ・ダ・ガンバは「脚のヴィオラ」の意味で、この名は奏者が脚ではさんで構えることからつけられた。この楽器はヴィオールとも呼ばれ、バス、テノール、アルト、トレブル(ソプラノ)の4種類が基本的に使われる。

武蔵野音楽大学のウエブサイトから引用

バイオリン属のバイオリン・ビオラは肩に乗せて演奏しますね。バイオリン属は元来肩に乗せて演奏する一族で、チェロやコントラバスは大きくて肩に乗せられないので、立てて演奏しているのでしょう。ビオラ・ダ・ガンバは大きいものから小さいものまであるが、どれも足に乗せて立てて演奏すると言うわけで、バイオリンとは違う筋の楽器のようです。ガンバとは「脚」という意味です。

この曲は、チェロでもよく演奏されるので、バスかテノールのビオラ・ダ・ガンバの為の曲と思われます。バッハが、ケーテン時代に楽団のビオラ・ダ・ガンバの名手の為に作曲したものです。

上野にとってはこの曲は大切な曲で、5歳でチェロを始めるきっかけになったもの。先のジュネーブ国際コンクールでも演奏された、彼の重要なレパートリーです。

演奏は非常に端正で、心が洗われるようです。特に2楽章の長調と短調が入り乱れるような部分はその明暗が明確でハッとさせられます。

こちらのサイトには、チェロ版とガンバ版のyoutube動画が載せられており、比べて聴くことができます。

ヒンデミット作曲 チェロとピアノのための3つの小品 作品8から第2曲

1917年に作曲された『チェロとピアノのための3つの小品(作品8)』で、まだ彼が、新古典主義に向かう以前の時代、後期ロマン派の影響が濃厚な作品のひとつ。その名のとおり、「カプリッチョ」「幻想小品」「スケルツォ」の3曲からなり、いずれの曲も感情豊かで魅力的だが、特に第2曲「幻想小品」は、チェロにより朗々と奏されるメロディーが素晴らしい。

それは音楽からはじまった から引用

この曲は、中間部のチェロとピアノの左手(低音)がユニゾンで奏する旋律が本当に印象深く、心をわしづかみにされます。

ここで、ピアノを弾いているのが須関裕子さん。ほっそりした見目麗しいお姿も素晴らしく、上野のチェロにぴったりと寄り添っていきます。

愛知県生まれ。
全日本学生音楽コンクール、日本ピアノ教育連盟ピアノオーディションにて上位入賞。第8回彩の国・埼玉ピアノコンクール中学校の部にて金賞受賞。
桐朋女子高等学校音楽科2年在学中に、第2回チェルニー=ステファンスカ国際ピアノコンクールにて第1位、併せてステファンスカ賞、遠藤郁子賞受賞。

amebaより引用

若い頃からばりばりに才能を開花させた方であり、桐朋研究科を首席修了した凄い人でした。

ヒンデミットのこの曲は、後期ロマン派の香りが残る、聴きやすい名曲でした。十分に歌わせる上野のチェロはこの曲の良さを十分に生かし切ります。

プーランク作曲 チェロ・ソナタ 作品143

最近このプーランクというフランスの作曲家の曲を耳にすることが多くなり、とても気になっていました。さて彼が唯一残したチェロソナタとは。

全4楽章のこの曲は、1楽章から「行進曲のテンポでのアレグロ」「カバティーナ」「バッラービレ」「フィナーレ」です。

カバティーナは抒情的な旋律を表現の主体とする小品という意味で、ベートーベンも弦楽四重奏で使い、有名なのは映画「ディア・ハンター」のギターのメインテーマがカバティーナです。

バッラービレは舞踏曲という意味です。

プーランクはバイオリンやチェロの為の曲を書くことに意欲がわかなかったそうです。この曲でチェロの扱いに詳しくなかった彼に技術的観点で助言を与えたのは、フランスの名チェリスト、ピエール・フルニエです。そのため、この曲はフルニエに献呈されています。

この曲は、プーランクらしい軽妙さやユーモアそして瑞々しい詩情を薫らせつつ、チェロの音色を良く活かした大変すてきな曲です。ただし、高度な演奏技術も必要です。

上野の演奏は、この曲の良さをよく表現し、チェロという楽器のすばらしさを、何の危なげも無く見せてくれます。

samon
samon

彼が演奏した今回の3曲は、私はどれも知りませんでしたが、大変すばらしい曲であり、宝物を見つけたかのようなうれしさを感じました。プーランクは無理としても、ビオラ・ダ・ガンバソナタにはチャレンジしてみたい気持ちがわいてきました。IMSLPに総譜がありました。新しい曲に出会わせてくれた上野通明氏に感謝したい。この新しいチェロの名プレーヤーからは目が離せません。

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