ポール・バーホーベン監督作品「ベネデッタ」彼女は本当にキリストの嫁として選ばれたのか それとも嘘つきなのか 聖といかがわしさが同居する娯楽作品

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「ロボコップ」「スターシップ・トゥルーパーズ」などで大好きな監督の問題作を、長崎セントラル劇場で鑑賞してきました。84歳にして、変わらぬバーホーベン節爆発の作品でした。

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結論

猥雑さとエロティックが同居した修道女の物語は、一級の娯楽作品として結実しています。こういう映画を観たかった。

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あらすじ

17世紀イタリア。幼い頃から聖母マリアと対話し、奇跡を起こす少女とされたベネデッタは6歳で修道院に入る。純粋無垢のまま成人したベネデッタは、ある日修道院に逃げ込んできた若い女性を助ける。様々な心情が絡み合い2人は秘密の関係を深めるが、同時期にベネデッタが聖痕を受け、イエスに娶られたとみなされ新しい修道院長に就任したことで周囲に波紋が広がる。民衆には聖女と崇められ権力を手にしたベネデッタだったが、彼女に疑惑と嫉妬の目を向けた修道女の身に耐えがたい悲劇が起こる。そして、ペスト流行にベネデッタを糾弾する教皇大使の来訪が重なり、町全体にさらなる混乱と騒動が降りかかろうとしていた・・・。

チラシより引用
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作品

冒頭、「実際に起こった出来事から発想された物語」という字幕が出ます。バーホーベン監督は製作の動機を次のように述べています。

ベネデッタの物語の独特な性質に惹かれたんだ。17世紀初めに修道女の同性愛についての裁判があったこと、裁判の記録や本書のセクシュアリティの描写がとても詳細なことにも感銘を受けた。

同上

創作の原点となった、現代まで残る記録の緻密さ詳細さに感心します。少し前、現代日本で過去の重要な事件の記録が、お役所の規則によって機械的に廃棄されたことがありました。そこには、考えて行動する力が減退している現代日本人の姿を見ます。思考停止にならないようにと自分を律したいですね。ちょっと話がそれました。

本作は2時間11分という尺があっという間に感じる、娯楽作品に仕上がっています。修道院という聖なる場所を舞台としながら、様々な猥雑さを包み隠さず描き出すという監督の作家性を感じます。

猥雑さのひとつが下ネタです。冒頭、ベネデッタ一家は修道院に向かう途中で山賊たちに襲われます。「神の罰があたるわよ」というベネデッタの言葉の後、鳥が山賊の顔にフンをするところがから始まり、町の舞台のような場所では、おならで火を噴く芸が行われています。逃げ込んできたバルトロメアが「うんちしたい」といって厠で脱糞し、おまけのおならまでします。

昔から「糞尿譚」というのはよくあって、思い出すのは菊池桃子の「パンツの穴」ですね。子どもの頃私がこの映画をTVで見ていると、一緒に見ていたおばあちゃんが「糞尿譚だね」と言いました。つまり、昔からある素材なのです。本作のおならなどはかわいいものです。

ベネデッタはキリストが登場する幻を何度も見ます。山賊にレイプされそうになっているところを、キリストに助けられます。山賊は首を切られてしまう。

複数の大蛇に襲われる幻視では、衣服の中に入ってこようとする蛇はエロティックですが、この大蛇もキリストに斬り殺されてしまいます。

十字架上のキリストとつながろうとする幻視では、キリストは自分の腰の布をベネデッタに取るように指示します。キリストの手に自分の手を重ねると、ベネデッタに激痛が走り叫び声を上げます。これは処女を失う瞬間を想像させます。幻視はどれも、性的なものを連想させます。

キリスト教でない私にはよく分からないのですが、キリストが性交の対象となるような表現は、キリスト教徒の人にはきついものなのではないかと想像しますがどうでしょうか?

このような猥雑だったり過激だったりする表現こそが、バーホーベン監督の作家性とも思われます。私は大好きですね。

ポール・バーホーベン監督

オランダ・アムステルダム出身の映画監督。ライデン大学で数学と物理を学び、卒業後に従事したオランダ海軍で軍のためのドキュメンタリー制作に携わる。オランダの人気TVシリーズの監督を手がけた後、1971年に長編映画監督デビュー。第2作「ルトガー・ハウアー 危険な愛」(73)でオランダ国内の話題を集め、「4番目の男」(83)などで国際的にも知られるようになった。「グレート・ウォリアーズ 欲望の剣」(85)でハリウッドデビューを果たし、続くSFアクション大作「ロボコップ」(87)で一躍、知名度を高めた。アーノルド・シュワルツェネッガー主演のSFアクション「トータル・リコール」(90)は大ヒットを収めるとともに、アカデミー視覚効果賞を受賞。シャロン・ストーン主演のエロティック・サスペンス「氷の微笑」(92)も反響を呼んだ。以降の監督作に「スターシップ・トゥルーパーズ」(97)、「インビジブル」(00)、「エル ELLE」(16)など。過剰な暴力描写などでたびたび物議を醸しながらも、鬼才として作品を世に問い続けている。

映画.comより引用

第2次世界大戦を体験しており、幼少期に過ごしたオランダのハーグでは、道ばたに死体が転がっている日常を見てきています。本作でペストにより多くの人々が死にその死体が町中にある描写は、この幼少期の経験を反映しているのかもしれません。

NHKのドラマで「大奥」のシーズン1が終了しました。秋からシーズン2が始まるようです。評判がよかったのでしょうね。このドラマの中でも感染症が扱われます。男子だけが感染する「赤面疱瘡(あかづらほうそう)」というものです。この病気で亡くなった者達の骸で山が築かれているという俯瞰のなかなかえぐいシーンがCGで表現されていました。

バーホーベンはペストの死者の多さを、このようなCGで表現することはしませんでした。あくまで実写にこだわったのかもしれませんし、見る者がその場に一緒にいるような臨場感を出そうとしたのかも知れません。

クライマックスの市民が兵隊の防御を振り切って教皇大使に迫るシーンも、俯瞰から多人数を映すことはなく、集団に中に巻き込まれているようなカメラワークとなっています。多人数のエキストラが準備できなかったのかもしれませんが、監督はCGは廃して、生々しい実写とその場にいるリアリティを選択したと思いますがいかがでしょう。

samon
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怖いもの、いかがわしいものを映像で見せてくれる。これは映画の娯楽性の重要な部分だと思います。本作は、同性愛者のうんぬんとかいう現代社会のトレンドを横に置いておいても、十分に楽しめる娯楽作品に仕上がっています。ぜひ、御覧ください。

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