ファン・ジョンミン主演「ソウルの春」全斗煥の軍事クーデターを迫真のリアルさで描き出す 

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「ベテラン」のファン・ジョンミンが憎々しいヴィランをどう演じるのか。

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結論

全斗煥になりきるファン・ジョンミンの役者魂を目の当たりにする。雪の中の軍事クーデターは悲しくも美しい

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概要・あらすじ

今日「粛軍クーデター」「12.12軍事反乱」などとも言われる韓国民主主義の存亡を揺るがした実際の事件を基に、一部フィクションを交えながら描かれる本作。韓国で公開されるやいなや、事件をリアルタイムで知る世代はもちろん、事件を知らない若者たちの間でも瞬く間に話題となり大ヒットスタート。独裁者の座を狙う男チョン・ドゥグァンへの激しい怒りと、彼に立ち向かったイ・テシンへの共感に、心をそして魂を揺さぶられた観客たちの世代を超えた熱量に支えられ、最終的には国民の4人に1人が劇場に足を運び、『パラサイト 半地下の家族』などを上回る1,300万人以上の観客動員を記録。コロナ禍以降の劇場公開作品としてはNO.1(2024年3月末日現在)となる歴代級のメガヒットとなった。この荘厳な歴史大作にして圧倒的緊迫感に満ちた至高のエンターテインメントを作り上げたのは、国内外の映画ファンから熱烈な支持を集めるノワールアクション『アシュラ』などで知られる名匠キム・ソンス監督。同作でもタッグを組んだ2大スタ―、ファン・ジョンミンとチョン・ウソンを再び主演に迎え、文字通りの歴史的傑作を誕生させた。

公式サイトより引用

1979年10月26日、独裁者とも言われた大韓民国大統領が、自らの側近に暗殺された。国中に衝撃が走るとともに、民主化を期待する国民の声は日に日に高まってゆく。しかし、暗殺事件の合同捜査本部長に就任したチョン・ドゥグァン保安司令官(ファン・ジョンミン)は、陸軍内の秘密組織“ハナ会”の将校たちを率い、新たな独裁者として君臨すべく、同年12月12日にクーデターを決行する。一方、高潔な軍人として知られる首都警備司令官イ・テシン(チョン・ウソン)は、部下の中にハナ会のメンバーが潜む圧倒的不利な状況の中、自らの軍人としての信念に基づき“反逆者”チョン・ドゥグァンの暴走を食い止めるべく立ち上がる。

同上

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感想

ユン大統領は、総選挙で敗北し野党が過半数を占める中で「死に体」となり、何の法案も通せなくなりました。そして突然の戒厳令の宣言、その後現職の韓国大統領として拘束・逮捕・起訴された史上初の人物という不名誉をまとうことになりました。終いには弾劾裁判で罷免され、パク・ウネに続く二人目の罷免大統領となりました。

この事件を見るに、韓国という国の不安定さを感じずにはいられません。

本作は、パク・ウネの父であり軍事独裁政権をしいていたパク・チョンヒ大統領の暗殺からスタートします。この事件は映画「KCIA南山の部長たち」で描かれ視聴済みです。パク・チョンヒは高度経済成長を達成し、韓国が最貧国から脱する施策を行う一方、徹底した民主化弾圧で独裁を敢行した人物です。

その独裁者の暗殺により、韓国の民主化の機運が高まります。これが「ソウルの春」この言葉はもちろんチェコスロバキアの民主化運動「プラハの春」の援用。この映画はその民主化運動を題名に冠しながらその内容は全く逆をリアルに描いています。

全斗煥に扮するファン・ジョンミンは「ベテラン」の姿と大きく異なり、頭の毛を剃ってか抜いてかはげ頭です。しかし顔ににじみ出るエネルギッシュさは両者から感じられます。「ベテラン」の正義に燃えるエネルギーに対し全斗煥の野望に燃えるエネルギーです。

映画の中で印象深いのは、組織の上に立つ者の寝返り・保身の姿であり、それは全斗煥の徹底した自分の意思を貫いていく態度と対比的に浮き上がってきます。特にクーデター勃発時にアメリカ大使館に逃げ込んだり、しまいに物置に逃げて震えたりする高官にはあきれるばかりです。

パク・チョンヒの暗殺後、大統領権限代行となった崔 圭夏は第10代大統領を他者に依頼したが固辞されて自らが意に反して大統領となった人物です。文民出のこの大統領も映画の中に登場し、全斗煥から陸軍参謀総長の逮捕の裁可を迫られますが、頑として譲らない抵抗を見せます。

しかし映画の最後では、クーデターが達成され裁可せざるを得なくなる。このときでさえ、書類に日付と時間をペンで記し、あくまで「事後裁可」であるとの証拠を残して、最低限の抵抗をする姿が描かれています。単なる保身だけの人物ではないことが強調されています。

その後自分の意思とは関係なく辞任させられ、在位期間は8ヶ月の韓国史上で最も短い大統領として「悲運の大統領」と呼ばれました。映画では彼を決して貶めることは無かったと感じます。

全斗煥がバックにおく陸軍の秘密組織「ハナ会」。このグループの最後までの忠誠が、全斗煥の勝利を支えたように描かれています。全斗煥の企てはピンチに陥ることもあるのですが、ハナ会のつながりが救うことになります。仲間の重要さを感じますね。

全斗煥とたった一人で対峙する首都警備司令官イ・テシンとの対決がサスペンスの中心となるわけですが、イ・テシンの敗北は、彼の部下にハナ会のメンバーが潜んでいたことが大きく影響していたのは間違いないでしょう。

全斗煥とイ・テシンの対決は移動する軍隊がソウルに入るか入らないかという行動で代弁され、これが手に汗握るサスペンスになっています。雪のちらつく夜の戦車の移動から想起するのは、もちろん押井守のパトレイバーシリーズの「二課の一番長い日」や映画版「パトレイバー2」です。

市街地の道路を戦車が静かに移動していく絵には心を高揚させる力があります。これは人の中に革命希求の気持ちがあるからでしょうか。

本作の中で、漢江(ハンガン)の橋を渡って迫る戦車隊をイ・テシンが身を挺して阻止し、引きかえさせるくだりは正義のクライマックス。

孤高に抵抗したイ・テシンの幾重にも設置されたバリケードや鉄条網を乗り越えて行く姿は目に焼きつきます。至近距離まで迫ってくるイに全斗煥も戦慄したことでしょう。しかし歴史の真実は全斗煥の勝利であり、トイレでの全の高笑いで終結してしまいます。

一人の人間が、国の体制を強引に変えていく歴史が描かれているわけです。それが起こる韓国という国の脆弱さを感じずにはいられません。

この映画の題名は「ソウルの春」とはなっていても、その実は「ソウルの春の終わり」ということです。全斗煥の民主化への弾圧は,1980年の「光州事件」へとつながっていきます。

奇しくも我らがセントラル劇場で「1980 僕たちの光州事件」がかかっています。こういうの共時性というのかしら。

samon
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憎々しい全斗煥を演じたファン・ジョンミン見事でした。歴史の事実を一級のサスペンスに仕上げる監督キム・ソンスの手腕にも脱帽です。次は「光州事件」の歴史を観に行きます。

コメント

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