スティーブン・スピルバーグ監督作品「ウエストサイドストーリー」今再映画化する意味は?

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スティーブン・スピルバーグ監督作品「ウエストサイドストーリー」を観てきました。ユナイテッドシネマ長崎8番スクリーン8:45の回です。

samon
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結論から言うと、この作品は超オススメのミュージカル映画です。ぜひ、映画館の大画面と質の良い音響で鑑賞されてください。

1961年のロバート・ワイズ監督の名作ミュージカル映画をスピルバーグが今リメイクするのはなぜでしょうか。映画評論家の町山智浩氏は、ラジオ番組の中で次のように語っていました。

マンハッタン島の西の端で繰り広げられる、プエルトリコ人とポーランド系白人の対立。人種の分断と対立は60年たった現代も何も変わっていない。むしろトランプ政権以降激化するばかり。それを描きたかった。
 また、1961年の作品では実現しなかった、プエルトリコ人らを実際のキャストにし、歌唱も吹き替えでない本人たちに歌わせるいわば「本物」のウエストサイド物語を作り上げたかった。

samon
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このコメントに、とてもこの作品が観たくなったわけです。事前学習で、カレーラスとキリ・テ・カナワが歌うCDを聴いたのですが、バーンスタインの指揮する演奏は素晴らしいものの、特にトニーの歌唱が、イタリアオペラ感が強く、カレーラスもカナワも年齢も行っているし、どうもいけません。若い二人(マリアは18歳という設定)の生の歌唱を聴きたいと切望します。

ここからは、ネタバレに触れるかも知れませんので御注意を。

冒頭、1961年版はニューヨークの空撮から始まります。高層ビルのさらに高いところから垂直に眺めた影像が斬新で印象的でした。今回は、ウエストサイドのスラム街が壊され再開発されている場面から始まります。字幕が入り、リンカーンセンターが作られることが知らされます。

リンカーン・センターは、アメリカ合衆国ニューヨーク市マンハッタン区アッパー・ウエスト・サイドにある総合芸術施設。劇場や、コンサートホール、芸術学校、図書館などがある。 ロックフェラー3世のイニシアティブの下、1950年代から1960年代にかけて建設された。
 ウィキペディア

この映像から、物語が1950年代であることが示されます。リンカーンセンターが完成し、そのこけら落とし公演は、1962年9月23日にこのミュージカルの作曲者である、レナード・バーンスタイン指揮のニューヨークフィルが執り行いました。土地の再開発によって、移民たちの住む場所が脅かされるという意味と共に、作曲者バーンスタインへの敬意も込めているのでしょうか。

さて、1961年版では公園でのバスケットボールの受け渡しから、不良少年団ジェッツの動きが始まりますが、今回は(たぶん盗んだ)ペンキの缶の受け渡しがバスケットボールの役目をしています。このペンキの缶は、プエルトリコ人たちの国旗が描かれた巨大な壁面を汚す役目を果たします。ペンキの缶を受け渡しながら、町の中をダンスしながら動き回る冒頭の躍動感は実に見事です。

2022年度(以下22年版)では、1961年版(以下61年版)にないキャラクターを配しています。1年刑務所で過ごしたトニーに仕事と住む場所を提供したドラッグストアの主人で、老婦人のバレンティーナです。61年版ではドクという男性役であり、少年たちの抗争を憂うという役柄です。バレンティーナの場合はより複雑になります。なぜなら彼女はプエルトリコ人であり、白人のドクと結婚したからです。皆から「裏切り者」と呼ばれ、分断と憎しみと対立を肌身で感いてきたという役だからです。

それゆえ、彼女が歌う「サムホエア」がこの映画の最も重要なメッセージとして聴く者の心を打つことになるのです。

61年版では、トニーとマリアが歌う「サムホエア」ですが、バレンティーナに歌わせることにより、若い二人の愛の成就という要素が、より普遍的な世界中の分断・偏見・差別を否定し、誰もが幸せに暮らす世界を希求するものになっています。これこそが、スピルバーグのメッセージだと感じさせます。

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このバレンティーナ役を演じるのが、リタ・モレノ。61年版でアニタ役を演じ、アカデミー助演女優賞を受賞しました。彼女はプエルトリコ人であり、90歳の彼女に「サムホエア」を歌わせるアイディアは素晴らしいものです。

そして、61年版でリタ・モレノが演じたアニータ役を今回演じるのが、アリアナ・デボーズ。この人の演技・ダンス・歌唱が凄いのです!

 プエルトリコ人の父と白人の母を持ち、アフリカ系とイタリアの血も持つという彼女は、自分をアフロ・ラテン系でクィアだと説明する。
 英Gay timesのインタビューで、「自分が誰と一緒にいるのか、誰を愛するのかについて隠すことは何もないです。しかし、黒人でクィアで女性であることは、複雑にもなりえます」と、自身の社会的立場について語る彼女は、だからこそ、彼女は自分のアイデンティティを通してキャラクターを表現することを追求している。
 彼女は、スピルバーグ監督や脚本家のトニー・クシュナーたちが揃ったオーディション会場で、こんなことを言い放ったと、米LA Timesのインタビューで明らかにした。
 「私はアフロ・ラテン系で、その事実はこのキャラクターのすべてを物語ることができます。彼女のコミュニティでの在り方も。もしそれを深堀りするつもりがないのであれば、私を採用すべきではありません」

FRONTROWより引用

自分の複雑な血筋と役柄を重ね合わせ、つよい覚悟と志をもって本役を演じたことが伺いしれる発言です。

彼女が歌い踊る「AMERICA」は、まさに本作品の名場面の第1に挙げられるのではないかと思います。61年版ではビルの屋上でのダンスシーンでしたが、22年版ではアニータをはじめとする女性たちは、建物からストリートに飛び出し、夢の国アメリカを歌い踊り上げていきます。

アメリカのよさを歌う女たちの揚げ足をとるように、男たちがつきまといながら否定していきます。強烈なダンス合戦が交差点で展開するこの場面はもう忘れようがありません。

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ちなみに、1957年のブロードウェイオリジナルキャストのCDを聴くと、この「AMERICA」は女性だけで歌われています。女性同志でアメリカの良さをあげつつ、それを否定していきます。女性だけの井戸端会議的なシークエンスを、61年版で男と女の言い争いにしつらえ、それを22年版も踏襲しているというわけですね。いやあ凄いシーンでした。もちろん一番輝いているのがアニータ役のアリアナ・デボーズです。彼女の最高にきれのよいダンス、そして黄色い衣装忘れられません。

最後に上げておきたいのが、台詞です。シャークス側プエルトリコ人たちの台詞には、英語とスペイン語が混ざります。これは61年版との大きな違いだと思います。日本語字幕では、スペイン語の部分には《永遠に・・・》のように《 》が付くのでわかりやすくなっています。本国では、スペイン語の部分だけ英語字幕になるのでしょうか。

マリア役のレイチェル・ゼグラーも素晴らしい演技と歌声でした。これは、もう劇場で確かめてください。

samon
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長くなってしまいましたが、スピルバーグが現代に重要なメッセージを伝えたくて映画化した「ウエストサイドストーリー」ぜひ、映画館で観てみてください。ああそうだ、スピルバーグが映画化したもうひとつの理由が、エンドタイトルを観ているときに分かりました。「for DAD」の黄色い文字が現れます。スピルバーグのお父さんが大好きだったのがこのウエストサイドストーリーだったそうです。お父さんは100歳を越える長寿で亡くなったのです。このお父さんに捧げたのが本作というわけです。スピルバーグにとっても大切な作品であるのですね。

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