
作家生活50周年でも「このミス」第1位にランクされる驚くべき作家の「アウトサイダー」なるこのモンスターははたして
結論
ミステリーとホラーの上手な融合。見事なビジュアル表現で脳内スクリーンは大喜び
概要・あらすじ
キング作品はもともとホラー・SF・ミステリ・ファンタジーなどの手法を融合させたジャンルミックス性に特徴があり、ミステリへの挑戦も『ドロレス・クレイボーン』(一九九二年)などで比較的早くから試みられてきたが、その手腕が玄人筋からもあらためて評価されたということだろう。
二〇一八年に原著が刊行された本書『アウトサイダー』は、恐怖の帝王の貫禄とミステリ作家としての技倆がともに堪能できる、キングの現在形が詰まった長編だ。
ネットより引用
ジョージア州の小さな町で起きた11歳の少年の惨殺事件を軸に展開される物語です。事件の容疑者として地元の名士である高校教師が逮捕されますが、彼は明白なアリバイを持っており、事件は不可解な状況を呈します。ベテラン刑事ラルフは、捜査を進める中で、超自然的な現象や不気味な男の影、そして少女が見る幻覚など、キング作品ならではの要素に翻弄されながら、事件の真相に迫ろうとします。
物語は、事件の真相を追う刑事ラルフと、被害者の家族の復讐劇、そして事件に隠された超自然的な要素が複雑に絡み合い、物語は衝撃的な展開を見せます。
生成AIによる
感想
前半の白眉は、容疑を受けた高校教師テリーをスポーツ試合の最中に衆人環視の元に逮捕するシーン。同様にテリーを裁判所か拘置所に入れる際に、集まった多くの犯罪を憎む一般市民の中、テリーが何者かに射殺されてしまう場面です。
非常に映像的で文章を追う中で、頭の中のスクリーンに具体的なシーンがどんどん浮かんできます。見事な筆力です。これぞ小説の醍醐味。
語り手(視点)が次々に変わっていきながらも、読者は混乱すること無く、むしろ変化を楽しみながら読みすすめることができるのもすばらしい。
物語は全体に大河のようにゆったりと進みながら、時折濁流のような奔放さで迫ってくるときもあり、緩急の具合が絶妙です。
一般に「ミステリー」と「ホラー」は取り合わせがよくないといわれています。なぜなら「ホラー」はある意味、出来事の理由がよくわからないことが怖いのであり、逆に「ミステリー」は理路整然とすべてのピースがぴたっとはまって出来事の理由が解明されるのが快感であるからです。
このジレンマをキングは、前半に「ミステリー」要素で展開し、後半怒濤の「ホラー」へと突き進むことでクリアしているように思います。

登場人物はどれも魅力的に描かれますが、特に後半に登場する女性探偵の「ホリー・ギブニー」は忘れられないキャラクターです。タフな探偵とは真逆の繊細でこわれもののような精神をもちつつ、見事な推察力、抜かりのない準備そして丁寧な言葉遣いなど、これまでにない探偵像を創造しています。
彼女は今は亡き探偵「ビル・ホッジス」に鍛えられたと語ります。ビル・ホッジスはキングが本格的なミステリーに挑んだ「ミスター・メルセデス」に始まる「ビル・ホッジス三部作」に登場する退職刑事の探偵です。「・・・メルセデス」はなんとアメリカ最高のミステリーに贈られるエドガー賞最優秀長編賞を受賞しています。さっそく、図書館にリクエストです。
大団円アウトサイダーとの対決は、過去に行方不明者多数が出た忌まわしい鍾乳洞の底。壊れそうな螺旋階段を下りていくホリーと刑事。そこにいるのは次の人物に変化しつつも片目だけテリーのブルーの目を残すアウトサイダー。物体Xかという感じでとても映画的です。頭のスクリーン全開です。
ホリーの、ソックスにベアリングを詰めたブラックジャックでの一撃はアウトサイダーの頭部を破壊し、そこからあふれ出てくる地虫。気持ち悪さの極地です。どこかで見たビジュアルでもある。たぶんキング原作の何かの映画化のやつで、口からゴキブリゾロゾロがあったような。また「ハムナプトラ」のCG然とした虫も想起されますね。
今回の事件を越えて強い絆を結んだホリーと刑事ですが、エンディングで刑事はホリーへの恋心を確認し(決して口には出さない)、さわやかに終わりを告げます。ホリーの側からの気持ちは一切書いてありません。ホリーがどう思っているのかはわからない。とてもいいエンディングになっています。ホリーにはまた登場してもらいたいと感じさせます。

大河を下り終えた達成感がキングの小説を読んだ後は感じることができます。次は「ビル・ホッジス三部作」だ。あれ完全に術中にはまってる?
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