ジョーダン・ピール監督脚本「ゲットアウト」アカデミー脚本賞の周到なストーリーテリング

Movie
スポンサーリンク

ジョーダン・ピール監督作品「ゲットアウト」(DVD:長崎市立図書館)を観ました。

samon
samon

十分に楽しめるスリラー作品ですが、黒人と白人の関係という、ジョーダン・ピールが追い求めているテーマを考えてみるのもおもしろいかもしれません。そんな含みを感じる作品です。まさかの第90回アカデミー賞脚本賞受賞の本作。一見の価値があります。ぜひ御覧ください。

序盤の重要シーン

冒頭、黒人青年が拉致される不穏なシーンで始まります。もちろんこの伏線は後にきれいに回収されます。

場面変わり、写真家のクリス・ワシントンが黒光りする肌もあらわに、朝からひげを剃って、きれいに身支度をしています。そこに白人の恋人ローズがやってきます。これから、ローズの家にあいさつに行こうということ。

クリスは「恋人が黒人だということは伝えているのか?」と心配します。ローズは両親ともリベラルであり「オバマの3選に投票しようとするような人たち」と答え、クリスを安心させます。

道中の車の中、クリスは友人のロッドと会話します。ロッドは後半で大切な役目を果たします。ロッドはTSA(運輸保安庁)に勤めています。パトカーに乗ることもあるロッドの職業は、最終版で意味をもてきます。

クリスとロッドとの会話はスピーカーホンになり、ローズも加わります。ローズとロッドも知り合いということが示されます。会話に夢中になった瞬間、「ドン」と車は何かにぶつかります。道路を横切った鹿と接触したのです。

動物のうめき声をたよりに、クリスがおそるおそる森の中に足を踏み入れると、1匹の鹿が息絶えていました。クリスはそのとき、何かを思い出したようでした。重要なシーンです。

カットが変わって、動物の処理を駆けつけた警官と話すローズ。警官は黒人のクリスに横柄に接し、身分証を出すように要求します。クリスは従おうとしますが、ローズは「必要無い」と警官を一括します。ローズのリベラルさが強く示されるシーン。ここも重要。おお、重要なシーンが多い。映画を見終えてそう思わせる序盤です。この辺が、脚本の評価につながったのでしょう。

ローズの家「アーミテージ家」の強烈な居心地の悪さ

クリスはローズの両親にとてもフランクに迎えられます。父親は脳外科医、母親は精神科医というエリートの家族。ローズの弟のジェレミーも医学生です。

大きな家には、二人の黒人が働いています。庭の管理人ウォルター(男性)と使用人のジョージナ(女性)。二人のクリスへの接し方は、何か不自然で、クリスは違和感を感じます。

クリスは母親から、催眠療法で「禁煙治療」をしてみないかと誘われますが、一旦は断ります。夜に外の空気を吸おうと、庭に出たクリスは、全速力で走ってくるウォルターに驚き、母親の部屋に逃げ込んだところ、催眠療法に誘われ、紅茶のカップとそれをかき回すスプーンの音でついに催眠に陥ってしまいます。

イスの下に沈んでいき、真っ暗な水の中を落ちていくシーンは、実に恐怖です。何も無いところをあがき回るほど怖いものは無いと思いませんか?「無間地獄」ともいいますね。

目覚めた翌日、タバコの臭いに吐き気がするようになっていました。

不気味な居心地の悪さはさらに加速していきます。毎年催されるというパーティの来客が次々に高級車で現れます。ほとんど白人の老夫婦ばかりですが、中に黒人の若者と白人の老夫婦がおり、クリスがスマホでこの黒人の若者の写真をこっそり撮ろうとフラッシュを焚いた瞬間、黒人の若者は鼻血をたらし、突然クリスを襲い「ゲットアウト(出ていけ)ゲットアウト」と繰り返します。

映画の題名が出てきました。青年は実は、クリスを助けようと試みたのでした。

このとんでもない違和感や居心地の悪さに加え「ゲットアウト!」の事件に、クリスとローズは近くの湖畔に逃げ出します。

その間にアーミテージ家では、不気味なビンゴが行われていました。いや、ビンゴではなく、クリスの写真を前に置いてのオークションなのです。クリスを競り落としたのは、盲目の画廊オーナーのジムでした。ジムはクリスの写真作品も審査しており、その才能を認めていました。

ローズはクリスと共にアーミテージ家を去ることを決めますが、一旦荷物を取りにと、実家に二人で戻ります。

その後、クリスはもっともっととんでもない体験をすることになるのですが、あとはぜひ本編を御覧いただき、その恐怖を御自分で体験してください。

ジョーダン・ピールのねらい

周到な伏線と、驚愕の展開、見事な脱出のアイディア、そしてラストのあっと驚く結末など、その見事な脚本と演出を担当したのが、ジョーダン・ピール。

コメディアンや俳優として活躍していたピールが、初めて脚本を書き、監督までしたのが本作です。第2作は「アス」、またTVシリーズ「トワイライトゾーン」では脚本執筆とともにホスト役で出演もしています。さらにHOBのTVシリーズで「ラヴクラフト・カントリー」を製作総指揮をつとめました。

作品群に共通するテーマは「黒人と白人」です。

では、本作のテーマは何でしょうか。「白人のリベラルの傲慢」とともに「黒人の能力の高さへの矜持」も感じてしまいました。みなさん再び人間に生まれ変われるとしたら、日本人でいたいですか?それとも・・・。

samon
samon

まずは本格スリラーを体感し、その後、脚本の見事さを堪能できる2度おいしい作品です。さらには、白人リベラルの傲慢さや老いの恐怖も感じられます。多層な楽しみを含んだ本作、大オススメの逸品。ぜひ。御覧ください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました