
フランスミステリーにはこれまであまり縁がなかったが。はたして。
結論
孤独を下地とする5人の独白。読むほどに引きこまれ、あっと驚くラストに読書の喜びを感じられます。超オススメ!
概要・あらすじ
吹雪の夜、フランス山間の町で一人の女性が殺害された。事件に関係していたのは、人間嫌いの羊飼い、彼と不倫関係にあるソーシャルワーカーとその夫、デザイナー志望の若い娘という、4人の男女。それぞれの報われぬ愛への執着を描く物語は、遠くアフリカに住むロマンス詐欺師の青年の物語と結びつき、やがて不可解な事件の真相を明らかにしていく。思わぬ結末が待ち受ける心理サスペンス。ランデルノー賞(ミステリー部門)受賞。
感想
5人の人物の独白の形式で語っていく。各章は独白者の名前になっています。冒頭は「アリス」。フランスの山間の寒村で牧場を経営する父。跡継ぎを娘に婿入りさせ牧場を継続させようとする父。アリスは村のソーシャルワーカーとして、村人の間を巡る仕事。
仕事上訪ねた孤独な男ジョセフと不倫関係になっています。アリスもまた孤独だったわけです。
この小説に貫かれるのは人間の孤独。独白する5人はみな孤独にさいなまれています。社会的生き物である我々の一番の恐怖が孤独だといつも思います。この恐怖から逃れるために人間はどんなこともやってしまうのかもしれません。その「どんなこと」が各章で行われるわけです。
特に異彩を放つのは、第2章「ジョセフ」での死体と暮らす生活でしょうか。腐敗していく死体が美しく見えてくる。読者がそれぞれ想像でその死の美を描く。本ならではの楽しみであり美しさです。
また、フランスの山間の寒々しい村で語られてきた物語が、がらっと一変するのもおもしろい趣向です。舞台は西アフリカのコートジボアール。ネット上のロマンス詐欺をする男アルマンの独白となります。
最後にアリスの夫「ミシェル」の独白ですべてのピースがかちっとはまっていくカタルシスはそうとうなものです。そして物語が序章に戻るような円環的な構造を成しているのも美しいと思います。

初めは地味に感じますが、読むほどに引きこまれ驚きのラストに読書の喜びを十全に感じられることができる作品です。映画化もされているのですが、見たいようなそうでないような。小説はぜひ読んでみてください。超オススメ!
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