オッコ・カム指揮 九州交響楽団オールシベリウスプログラム シベリウスの音楽を完全に掌握した自然な音楽作りに感動

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楽しみにしていた演奏会です。はたして

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結論

オッコ・カムのシベリウスを知り尽くした自然な音楽作りが大感動を生む。新進のバイオリニストの美音もすばらしく、今後がとても楽しみ。大満足のコンサート

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概要

第431回定期演奏会     2025/6/25(水)19:00開演
フィンランドの巨匠、オッコ・カムのシベリウス

指揮:オッコ・カム  バイオリン:中野りな   コンサートマスター:西本 幸広

プログラム
トゥオネラの白鳥
バイオリン協奏曲ニ短調
交響曲第1番ホ短調

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感想

開演前にオッコ・カムのプレトークがありました。カム氏は英語で話し、通訳は楽団員が行いました。話は概要的なもので、それほど心に響くものではありませんでした。通訳もわからない部分もあり、ちょっともったいない時間だったという感想です。

演奏会は数分遅れで始まりました。指揮者が登場すると万雷の拍手。私もそうですが、オッコ・カムに惹かれて聴きに来た人が多いことがわかります。

幽玄なる弦楽器の和音で「トゥオネラの白鳥」が始まります。すぐに主人公のコール・アングレが歌い出します。心なしか沈んだ音色ですが、この曲には合っていると思います。意図的にそうしているのでしょう。

チェロのソロが上行の音階を登っていきます。最初の低い音が非常にいい音で、音程のドンピシャさがすばらしい。最後はビオラのソロにつながります。チェロのこの上行形は何度も出てきますが、ビオラにつながるのは最初だけだったように思います。単純でないのがいいですね。きっと意味合いがあるのでしょう。

黄泉の国の幽玄な世界を泳ぎ切ったコールアングレの女性には多くの拍手が続きました。

第1バイオリンの席が下げられ、独奏バイオリンのスペースが空けられました。いよいよ私の大好きなバイオリン協奏曲が演奏されます。独奏は中野りな氏。日本音楽コンクール優勝。仙台国際コンクールで史上最年少17歳で優勝。これが2022年のことなので、現在は20歳で桐朋学園大学で特待生在学という人です。使用楽器は貸与されたストラディヴァリです。

曲が始まるとすぐに独奏バイオリンが歌い出します。白の清潔なドレスの中野氏の音は、ドレス同様非常に美しく透明感にあふれています。低い弦の高いポジションは少し荒さが残る感じもしましたが、ダブルストップや移動ハーモニックスなどテクニックは完璧でため息が出るほどです。これからが本当に楽しみなバイオリニストです。

カムの指揮は、この曲を完全に自分の体内に掌握しているごとく実に自然でシベリウスの世界を眼前に再現してくれました。

このバイオリン協奏曲では、バイオリン独奏と弦の1プルトのアンサンブルという場面が何度も出てきました。フルオケのダイナミックさと室内楽の精緻さを両方とも楽しめることに視覚上でも気づかされました。チェロのソロもありました。やはりいい音でした。チェロトップは山本直輝氏です。

休憩後はシンフォニー1番です。昨年同じ九響で第2番を聴いています。よって1番でよかった。

第1シンフォニーは、チャイコフスキーの交響曲の影響下にあるという評価は多いのですが、今回聴いてみて、厳然たるシベリウスの個性が表れている曲だと痛感しました。

ティンパニの静かな地響きの上でのクラリネットソロは、チャイコフスキーの第5番冒頭を想起させますが、荒涼感や孤独感は全然異質なものと感じました。

クラソロの後のセカンドバイオリンの重音の刻みですが、大きめの音でびっくりさせる演奏もありますが、カムはそうはしませんでした。穏やかな流れの中でのmfくらい。すぐ続く第1バイオリンの旋律を自然に引き出します。

このことはカムの演奏全体に感じられることで、つまり音楽の自然な流れを滔々と作っていくということです。ゆえに音楽が体の中にすうっと入ってきて滋養になる感じがしました。

この曲を生で聴くのは初めてのこととなりますが、録音とはまったく違うダイナミックさを感じることができました。特に低音楽器のシンコペーションの下降形など腹の底に響いて心底印象的です。

2楽章の冒頭の弦楽器の美しい旋律に酔いしれますが、曲は自然にテンポやボリウムを変化させながら複雑に展開していきます。変わり目がはっきりしていてわかりやすいチャイコフスキーの5番2楽章と明確に異なるシベリウスらしさが横溢します。

3拍子のスケルツォ。弦楽器のギターストロークの中、ティンパニの強打で印象的に始まる元気な曲です。ハ長調の脳天気な調性ですが、シベリウスの手にかかるとそう単純にはきこえない不思議さがあります。

4楽章は前楽章と対照的に、明確な悲劇的主題で始まります。どこかで聴いた旋律と思えば、1楽章冒頭のうら寂しいクラリネットの旋律が形を変えて再来していることに気がつきます。

曲は速くなって展開、シンバルや大太鼓も加わってオーケストラサウンドを楽しませてくれます。中間部のバイオリンの美しい主題はシベリウスのメロディメーカー的なよさも感じさせてくれます。金管楽器も咆吼しますが、不思議に曲は弦楽器のピチカートで途切れるように終わります。

コンサートマスターの西本幸弘氏は、パキパキとした明確な合図を全体に放出していて、よいコンマスだと感じました。8月3日に柳川で日下紗矢子氏らと室内楽を演奏します。チケットが手に入ったので、こちらも楽しみなコンサートです。

オッコ・カムは自分の生まれた国のこのシンフォニーを隅々まで知り尽くしていて、曲の特徴を十全に引き出しながら、その流れは実に自然で聴く側をとてもリラックスさせてもくれるのです。レコードやCDの録音では決して体験し得ない音楽体験を生の演奏は与えてくれました。

アンコールは無く残念でしたが、大変に満足な演奏会でした。ソリストの中野氏のサイン会があっていましたが、CDを買わなかったわたしは会場を豊かな心持ちで後にしました。

samon
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オッコ・カム氏も高齢なのでもしかしたら彼のシベリウスを生で聴けるのも最後かも知れません。その意味でも行って良かったコンサートでした。雨の中、朝倉市の道の駅まで移動して車中泊。暑くなくてよかった。

コメント

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