2024年から現在使われている5千円札の肖像が樋口一葉から変わります。誰だかご存知ですか?
日本で最初の女子留学生であり、後に津田塾大学を創設した津田梅子が5千円札を飾ります。
それに関連してなのか、テレビ朝日で3月始めに津田梅子の半生がドラマ化され放送されました。
録画していたものを1ヶ月遅れで視聴しました。
偉人伝ドラマってなあ・・・。と思いつつも、その女優陣の豪華さに惹かれて見始めたところ、引き込まれてしまいました。留学生故の苦悩と、仲間たちとそれを乗り越えていくバイタリティ。前半生にばっさり絞った潔い脚本にも快感を感じました。
豪華若手女優陣
- 広瀬すず:津田梅(子)
- 池田エライザ:山川捨松
- 佐久間由衣:永井 繁(しげ)
- 宮澤エマ:吉益 亮
憑依型女優広瀬すずの演技は例の如く、いつの間に津田梅になりきっていきます。
驚いたのは池田エライザ。NHKの「古見さんはコミュ症です。」でしゃべらない女子高校生を見事に演じた彼女が、今回は留学生のリーダーとして、また大山巌夫人として大人の女性を堂々と演じており、その落差の大きさの感心します。これから彼女のことは「カメレオン女優」と呼ぶことにしましょう。
佐久間由衣は、「時空探偵おゆう」を楽しみにしていました。172cmのモデル身長ですが、本作の中ではその身長は目立ちません。池田エライザも170cmなので横並びのシーンでも差が無かったからでしょう。笑顔がすてきな佐久間は本作ではめがね女子としてもかわいさを見せます。
「鎌倉殿の13人」で実にいい味を出しているのが宮沢エマ。総理大臣宮沢喜一の孫です。インターナショナルスクールや大学時代にはケンブリッジ大への留学もしている才媛。ドラマの中で、子どもたちに英語を教えるシーンがありますが、その発音の美しいこと。ミュージカルにも多数出演しているので、歌もうまいのでしょう。注目の女優さんです。
脚本の妙
本作は、梅の生涯を留学に出るところから、帰国し津田塾大の元となる「女子英学塾」を創設するところまでを描きます。後半生は思い切ってカットして、エンディングは老年の梅を原田美枝子が短く演じます。セリフは無く、メモ帳に何かを記して、ロッキングチェアに座るだけです。
そのメモ帳がアップになって、梅が最後に書いた象徴的な言葉「Storm last night(昨晩は嵐だった)」で締めくくられます。すてきです。
また、両親に対し留学させたことを恨む場面があり、それがラストで留学させてもらったことを感謝し深く頭を下げるシーンを置いて、梅の変化を対比的に示します。脚本の妙ともいえるすばらしさを感じました。
彼女の嵐の人生とは、そしてそれを乗り越えさせたものとは何でしょうか。
留学の二つの意味
梅の父津田仙は農学者でありキリスト信者です。オランダ語英語も学んでおり、青山学院大学の創設に関わるなど、立派な人物です。ドラマの中ではこの役を伊藤英明に配して、粗野で旧態依然とした部分が強調されています。また、「日本で最初」のことが好きであり、それが日本で初めての女子留学生に梅を出す事の理由のように語られます。
6歳でアメリカに留学し、そこで同行する捨松、繁、亮らと出会います。また、森有礼(ディーン・フジオカ)や伊藤博文(田中圭)とも面識をもつことになります。
ドラマでは伊藤博文は、芸者と一緒に泥酔して帰宅するシーンが挿入され、伊藤の人間らしい一面が描かれます。しかし、森有礼は徹頭徹尾スマートでかっこよく描かれています。実際にそうであったのかはまたの機会に調べるとして、ディーン・フジオカを配したことが理由かも知れませんね。
梅はワシントンで11年を過ごし、明治15年(1882年)11月に日本へ帰国します。「留学させていただいた日本のために働かねば」という強い意志をもって帰国するも、男尊女卑の価値観が色濃く残る日本においては女子留学生の活躍できる職業分野にも乏しく、思うようにならない日々に苦悩することになります。
捨松と繁は、それぞれの考えで軍人に嫁いでいきます。そのため、梅との友情も崩れそうになり、梅はさらに苦しみます。そして、「留学しなければよかった」とその苦しみを両親にぶつけることとなります。留学したために「苦しみ」が生まれた。これが留学の一つ目の意味としてドラマでは中心的に描かれていきます。
しかし、捨松と繁はそれぞれの立場で梅を助けていきます。また、伊藤博文は梅を自家の家庭教師として雇い入れたり、華族女学校の英語教師として推薦したりと、梅を助けていきます。
そして、森有礼は「留学させてくれた国に恩返しをせねばいけないと、自分をしばっているのは梅自身ではないか?」というアドバイスをくれます。この言葉をきっかけに考えを広げることができた梅は、自分をもっと自由に解き放つことができるのです。
亮はコレラ倒れ、思い半ばで亡くなってしまいます。この悲しい事実も、梅の女子教育への思いを強固なものにしたことは間違いありません。
そんなたくさんの「留学した仲間たち」がいなければ今の自分は無い。その仲間たちに出会わせてくれたのは「留学」があったからだ。ドラマの最後で、梅は留学させてくれた両親に深く感謝を示します。
これが「留学の二つ目」の意味なのです。
見事な脚本を、豪華な女優俳優陣で描いた本作は、単なる偉人伝にとどまらない感銘を与えてくれました。自分に起こることはどれも無駄なことはない、とよく言われますが、それを痛感させてもくれました。新しい5千円札を使うたびに、梅のすてきな半生を思い出すことにしましょう。
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