澤村伊智 著「恐怖小説 キリカ」を読了しました。
怪談や恐い話が大好きな私ですが、しばらくホラー小説を読んでいませんでした。久々に出会ったのがこの作品。凝りに凝った構成が現実と創作の間をあいまいにしていきます。暑い夏には、恐い話でヒンヤリしましょう。
映画「来る」
少し前に話題になった、中島哲也監督作品「来る」。以前観ました。豪華キャスティングとものすごい展開に楽しませてもらったのを覚えています。最後松たか子が全部もっていっちゃいます。(「マスカレードホテル」も最後は松さんが・・・)
この映画「来る」の原作が、澤村伊智 著作の「ぼぎわんが、来る」です。
『ぼぎわんが、来る』(ぼぎわんがくる) は、澤村伊智による日本のホラー小説。2015年に「澤村電磁」名義『ぼぎわん』のタイトルで第22回日本ホラー小説大賞の大賞を受賞。後に改題して10月30日、澤村の小説家デビュー作として刊行された。
wikiより引用
wikiでは、「ぼぎわんが、来る」執筆の背景も示してありました。引用します。
2012年にフリーライターとなった澤村伊智は趣味として執筆を始め、2014年春時点で10作の短編を書き上げていた。そして34歳の節目に自身初めての長編小説に挑戦する。これは都筑道夫『都筑道夫のミステリイ指南』にあった長編執筆の教えと、澤村の好きな作家・殊能将之のデビュー作執筆が34歳のときだったことが理由である。澤村は自身が最も好きな「怖い話」をテーマに書き、友人らに読ませたところ評判がよかったため日本ホラー小説大賞へ応募した。
同上
この厳然たる事実が「恐怖小説 キリカ」の中に取り込まれていきます。
構成の妙
本作「恐怖小説 キリカ」は次のような章立てになっています。
- プロローグー始まり、あるいは終わり
- 第1章 小説「不幸(ミザリー)は出発の前に」香川隼樹
- 第2章 小説「長い長い妻の告白」香川霧香
- 第3章 小説「友達に関する覚え書き」梶川啓太
- エピローグーあとがきにかえて
前述した「ぼぎわんが、来る」がホラー小説大賞を受賞するまさに事実が語られるプロローグから始まります。え、ドキュメンタリー?と読み手はいきなり疑問符をつかまされます。
続く3つの章は、3人の作者が語り手として話す形です。いずれも、文章の形でPCのテキストやメールの形で文章化されているので、小説と銘打ってあります。
この3つの章をつなげることで一つの作品にする意味の謎解きも第3章で語られます。
エピローグでは、本作のゲラが作者に届いて、題名変更を編集者から頼まれるという、またもや真実が仄めかされています。
なんとも凝った構成に唖然とするばかりです。
第1章の途中から「これはフィクションだろう」とわかりはしますが、頭の端っこに「この話、もし本当だったら・・・」という一抹の疑念が残るところがちと怖いのです。
スプラッター
第1章で「フィクションだろ」とわかるというのは、作者の澤村伊智(本名:香川隼樹)が、「ぼぎわんが、来る」を批判した友人を惨殺してしまうからです。
でも、上の引用でも赤いマーカーしたところ、「友人に読ませた」ことは事実なんですよねえ。はは・・怖い。
この友人の惨殺から、かなりのスプラッター(血みどろ)展開となります。
第2章では、妻の霧香の告白の様式で、次々に香川の作品をマイナス批評した人々を、惨殺していきます。スプラッターの連続で、そちらがちょっと苦手な人にはオススメできません。
SNSで批判した読書を、作者が探し出して殺しに来るって展開は、読者からすると恐ろしいです。探し出す方法も、ありえそうでますます怖い。
その辺、作者の計算が成功しています。
その後ー文庫版あとがきにかえて
文庫版の巻末には、「文庫版あとがきにかえて」という文章が付け加えられます。
ここには、読者から作者に来たメールが紹介されます。そのメールの内容は、「キリカは痛快な小説であったこと」「(書く側)業界人にとってはこの小説は『恐怖小説』でなく、『願望充足小説』であること」などです。
つまり、「本が売れないのはクソ読者がネットに垂れ流すクソレビューのせいだ」だから業界人は、「幼稚な文言で他人や他作品を貶すことでしか自尊心を満たせない、批評家気取りの愚かな読者を嬲り殺しにしたい」欲求をもっており、それを小説上で実現したのが本作だからということ。
さらに、続けて「同士A」からのメールが紹介されます。そこでは何と「同士A」は小説と同じ事を実際に始めたと告白してあります。酷評批判する読者を「掃除」し始めたと。
最後の最後まで、「どこまでホント?」を貫いて、読者をぞぞっとさせてくれる趣向となっています。
作者自身の事実を絡めながら、読者を真実とフィクションの間で惑わせてくれる、それが本作の醍醐味です。スプラッターが大丈夫だという方は、ぜひ読んでみてください。感想サイトで、酷評するあなたは、ぜひ読んでみましょう。
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