「ボイリングポイント/沸騰」フィリップ・バランティーニ監督・脚本 90分間ノーカットワンショットの映画 そんなことできるんだ!

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samon
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長回しは相米慎二監督のころからの憧れ。ところが何とこの映画は全編1カット撮り!しかもそこで展開されるドラマは緊張感溢れ、まさに沸騰点に達するスリリングさです。これは凄い!大オススメの英国映画。

あらすじ

1年で最も賑わうクリスマス前の金曜日、ロンドンの人気高級レストラン。その日、オーナーシェフのアンディは妻子と別居し疲れ切っていた。運悪く衛生管理検査があり評価を下げられ、次々とトラブルに見舞われるアンディ。気を取り直して開店するが、予約過多でスタッフは一触即発状態。そんな中、アンディのライバルシェフが有名なグルメ評論家を連れてサプライズ来店する。さらに、脅迫まがいの取引を持ちかけてきて・・・

チラシより引用

脚本の見事さに驚きです。一夜のレストランのドラマの中に、様々な社会問題や人間模様が詰め込まれています。それが、ワンカットのカメラで流れるようにすべてとらえられていく快感はえもいわれません。様々なことがありつつも、ひとつひとつの出来事にとらわれすぎない潔さもあります。

袖をあげろ(以下ネタバレ注意)

厨房の奥の部屋では、パティシエの女性とそのアシスタント男の子がレモンクリームを作っています。衛生検査官とのやりとりで、パティシエの女性が名の知れた料理人と分かります。全体を統括するアンディはアシスタントの男の子の袖が長いことを指摘し「袖をあげろ」と言って去ります。

パティシエの女性が「袖をあげろといわれたでしょ」と男の子の袖を上げさせようとしますが、男の子は拒みます。無理に引き上げると、そこには無数のリストカットの後が見えます。パティシエの女性の母性が溢れ、すべてを悟って彼女の目に涙がこぼれます。観客も同様の気持ちになっていたことでしょう。女性はだまって男の子を抱きしめてやります。

セリフは全くありません。でも、その気持ちのやりとりは見る者にしっかりと伝わるのです。映像の勝利といえるでしょう。このシーンが、私は映画中でももっとも心打たれました。涙腺やられました。男の子の生きづらさ苦しさが共感でしたのでしょうね。

中指のない男

7番席のお客はファミリーです。が、父親は厳つい風貌に、言葉も横柄です。しかも、中指の第一関節より先がありません。母親も派手そうで、どうも普通のファミリーとは違うようです。その席で最初にオーダーを取ったのは、遅刻してきた白人で金髪のロビンでした。ロビンを気に入ったのか、父親は高級なワインをオーダーします。

ところが、ワインを運んできたホール係の女の子が、黒人の子に代わってしまったとたん、父親の態度は一変します。その人種差別的な態度は、現代イギリスのしかもロンドンにおいても存在するのだと驚かされます。

このレストランのスタッフたちは、人種のるつぼです。白人、黒人、英語がよくわからないフランスからきた女性、北欧系のホール責任者・・・。様々な人種がひとつの料理を協力して作っていることと、この人種差別的中指のない男が対比的に提示されることで、互いを際立たせているようにも思えます。

オーナーシェフはつらいよ

確かな料理の腕をもつオーナーシェフのアンディですが、スタッフに対して強く指導する一方で、相手が反旗を翻して逆に反論されたりすると、とたんに弱くなるある種優柔不断な人物像として描かれます。

予約を過多しすぎたホール責任者の北欧系の彼女に対し、スーシェフのカーリーがついに切れて、憤懣の拳を繰り出すシーンは大迫力の名演です。強気のホール責任者も直後、トイレにこもって泣き声をもらします。しかし、トイレから出て顔を整えて、またいつもの強い表情の彼女に戻り店内へと戻っていきます。強いです。そして、カーリーに「後で飲みながら話せない」と言います。カーリーも「いいよ」と応じます。

アンディにしろホール責任者の彼女にしろ、優柔不断と言うより、常に押したり引いたりして人間関係を保っているのだなとわかります。一人一人が自分の主張をはっきり表現する外国人故でしょうか。日本の徒弟的な飲食店のようすとはかなり違いますね。日本では大将のいうことは絶対でしょうからね。

アンディのレストランはまさに沸点に近く、沸騰する泡のごとく、次々にトラブルが連続していきます。観客は完全にその緊迫のレストラン内に取り込まれてしまいます。ワンカットのカメラは、この映画への観客の同化に大きく寄与しているのは間違いありません。

ワンカットの驚異

カメラは、出勤するアンディを左からとらえるところから始まります。そしてアンディが倒れてしまうまでを驚異のワンカットで撮影しています。

ロンドンに実在するレストランで撮影を行った本作は、なんと90分間の全編ワンショット!正真正銘のノー編集で、CGも不使用。

縦横無尽に動き回るカメラワーク、俳優たちの即興演技がもたらす圧倒的な臨場感に加え、激しくうねるサスペンスフルな人間模様、鋭い社会性をはらんだ心揺さぶるドラマから目が離せない。

チラシより引用

ということは、細かい脚本に縛られることなく、即興演技を中心に置いたからこそこの全編ワンカットが実現できたのかも知れませんね。カメラが撮影していない部分でも、まるで通常のお店を営業しているように役者さんたちは過ごしていたのでしょうか。いったいどんな脚本だったかとても興味深いです。

アレルギー

レストランを襲う大事件として、アレルギー騒ぎが起きます。外国でもアレルギー問題は顕在化してるんだなと思いました。日本の学校給食でのアレルギー対応の多いこと。私が小学生のときは無かったのではないかと思います。

思い出の最後に語りましょう。ずいぶん前に家族で香港に行ったときの話。ツアーで、レストランで夕食を済ませました。その後、夜景見学に屋根なしの二階建てバスに出かけたました。すると、さっき同じ会場で食事をした日本人が、気分が悪くなったようです。彼は、添乗員に「さっきの食事でそば粉がだされなかったか?」としきりに尋ねていました。彼は「そば」アレルギーだったようなのです。

samon
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崖っぷちシェフの波乱に満ちた一夜、史上最高にスパイシーなジェットコースタームービー(チラシ)に、ぜひあなたも乗り込んでください。「え、もう終わり。おもしろかったー」となること間違いなし。これからレストランに入るたび、厨房ではどんなドラマが・・・と想像してしまいそうです。大オススメの一本です。

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