キム・デジュン(金大中)大統領誕生の実話をもとにしたフィクション。長崎セントラル劇場にて最終日に観てきました。一番前のリクライニング席で楽しんできました。
冒頭とエンディングの鶏のはなし
男が相談に来る。
男「隣のやつが夜中に家の鶏の卵を盗みに来るんだ。文句を言いに言ったら、そいつは鶏にえさをやっていただけだととぼけた。村長に訴え出たら、そいつは村長の親戚で取り合ってもらえなかった。どうすりゃいい?」
相談を受けたソ・チャンデは引き出しから赤い毛糸を取り出す。
「鶏の足にこの毛糸を結びつけて、やつの鶏小屋にその鶏を入れておけ。翌日盗まれたことを訴え出て、否定されたら足の目印を証拠にすればいい」
相談した男は「そこまでやるか?」
チャンデは「一生お人好しでいるならやめればいいさ」
効果絶大な暗いアイディアをひらめかせるのが、本作の主人公のソ・チャンデです。冒頭にそれが見事に示されます。そして、映画の最後に同じ鶏の話を今度はチャンデが、慕い続けたキム・ウンボク(金大中)にするのです。
大統領にまでなったウンボクは、卵泥棒にどんな対策を語るでしょうか。その答えにこの映画の根幹が示されていると思いました。最も印象に残るシーンです。
韓国の大統領選挙事情
先日新しい韓国の大統領が誕生しました。大統領選挙の中で、落選すれば刑務所行きとか、驚くようなことが取りざたされていましたね。そういえば先の韓国の女性大統領は弾劾されて、任期途中で失職しましたね。その前の大統領も弾劾訴追されました。
最高権力の座を目指して政治家同士が激突し、負ければ汚職など不正行為を問われて刑務所入りになることもある韓国の大統領選挙。まさに生き馬の目を抜く熾烈な選挙戦を描いた衝撃作が「キングメーカー 大統領を作った男」だ。「KCIA 南山の部長たち」など、韓国映画が得意とするポリティカル・サスペンスの真骨頂であり、男たちの熱いドラマが韓国政界の深すぎる闇を暴き出す!
チラシより
刑務所行きというのは、選挙運動での汚職や不正行為のためなのですね。映画の中でも、シャツや靴を配るは、現金もばんばん配ってました。国民もそれを平気で受け取って、「毎日宴会」状態になっているのが描かれていました。本当にやってるんですねこんなこと。
劇中で描かれるエピソードの多くは、金大中(キム・デジュン)と選挙参謀だった厳昌録(オム·チャンノク)の実話を基にしており、「まさか!」と思うような展開も、ほとんどが現実に起こったということに驚かされる。そして、世界各国で最高指導者の資質が問われる今だからこそ、この映画が描き出す「政治の理想と現実」が切実なテーマとして観客の胸に迫る。
同上
彼の地ではいつ終わるとも知れない侵略戦争が続き、世界はそれをどうにもできずにいます。国内でも評価の定まっていない暗殺された元総理大臣の国葬が、物議をかもしています。物価は上がるも、賃金は上がらず、金利は低いままなので企業は内部留保をため込んでいく。国民の肌感で感じられる不満が渦巻いています。
もはやよりよき道に導いていく真のリーダーを期待するのは無理なのでしょうか?いっそ、超進んだ宇宙人あたりにリードしてもらったほうがよかったりして。
そんな現実の中で、理想に向かって登っていくキム・ウンボクの精神の清らかさが一条の光にも感じるものがありました。
キャスト等
ウンボクとチャンデ、いずれも魅力的な俳優さんでした。ウンボクの太陽のような清廉潔白さ、影のチャンデのまとう暗さを見事に表現していました。
光の当たる表の存在として民衆の希望となる国会議員、キム・ウンボクを演じるのは名優ソル・ギョング。そして同じ理想を追いかけながらも、ウンボクの影となり力を尽くすソ・チャンデに扮するのは「パラサイト半地下の家族」のイ・ソンギュン。誰よりもお互いを必要としながらも、決定的なところで混じり合わない2人の複雑な関係を熱演。激動の時代に翻弄される男同士の絆が観る者の胸を熱くする。監督を務めたのは、ソル・ギョングが主演した「名も無き野良犬のロンド」の俊英ビョン・ソンヒョン。本作を歴史の重みを感じさせる本格派の政治映画として描き新境地を開拓。その才能の奥深さを見せつけている。
同上
いつも顔の全面に光が当たるウンボクと顔の半分は影になっているチャンデ。監督の光による演出は2人をより対比的に現します。
ウンボクの明るさと器の大きさを印象づけるのは演説シーンです。野外で、背景に海を背負っての演説会シーン。反対候補の不正の指摘を受け、ウンボクは準備していた演説原稿を静かに閉じて、反論をしていきます。しかも笑いを交えながらひょうひょうと、民衆の心を掴んでいきます。この明るさと懐の深さ。ウンボクの政治家としての高い資質を見事に描いていました。
俳優の演技、光での演出など見事な映画的表現を感じることができる快作だと思いました。残念ながらきれいな女優さんはほとんど出ません。だからこそたった1人、まさに紅一点の選挙事務所の女の子が印象深いです。見事に田んぼにはまって泥だらけ。すてきでした。長崎での上映は終了しましたが、皆様機会あればぜひ御覧いただきたい映画です。オススメ!
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