90日の火星探査予定が驚きの長期に及びます。その間におこるトラブルとそこからの奇跡の復活の連続は、もう彼らが機械のロボットとはだんだん思えなくなるところがすごいのです。
結論
2台の火星探査ロボット(ローバー)の活躍を見守り、共に作り上げてきた人間は、彼らに連帯と愛情の感情をもつようになります。人間ってなんておもしろくてすてきな生き物でしょう。
計画
アメリカ航空宇宙局(NASA)が、火星表面の地質を観察して岩石を分析することを目的として、2機の無人探査車(マーズローバー)を火星に送り込んだ計画。MERと略称されることがある。2機のローバーはそれぞれスピリット(MER-A)、オポチュニティ(MER-B)と名付けられた。2003年6月10日にスピリットが、同年7月7日にオポチュニティが打ち上げられた。2004年1月3日にスピリットが火星のグセフクレーターに、1月24日にオポチュニティが反対側にあるメリディアニ平原の一角に着陸した。
天文学事典より引用
2機のローバーの運用期間は3か月であったが、スピリットは2010年3月に通信が途絶するまで6年間にわたり探査を実施し、オポチュニティは2018年6月に通信が途絶するまで14年以上にわたって探査を続けた。
映画の前半、この計画の実現に向けて人々の懸命の活動が描かれます。その過程で、メンバー達の家族のことなでも適宜挟み込まれていきます。このドキュメンタリーは2台のロボットを描きながら、実は彼ら人間の物語だということがよくわかります。
トラブル
86もの手順が何一つうまくいかなくても着陸はできないという難関を乗り越え、10分間の無信号の恐怖の沈黙を過ぎた後に、スピリットから強力な信号を送られてきて、NASAの面々は歓喜に酔いしれます。責任者の二人は、「ホッとした」「安堵した」ともらします。ものすごいお金をかけたプロジェクトゆえの感想です。
火星の映像を送り続け、順調にSOL(火星日)1日目を滑り出すスピリット。双子のオポチュニティも活動を開始し、火星の水の後を探査していきます。
ある朝、スピリットが起動できず、再起動をくりかえすというトラブルが発生します。フラッシュメモリの破損が原因でした。何とスピリットは2ヶ月間も眠ることなく、クラッシュと再起動を繰り返していたのです。そこで、強制的にシャットダウンをさせることにします。
しかし、それがうまくいかず困り果てます。NASAでは、毎朝ローバーの目覚めに合わせて「目覚ましソング」をかけていました。様々な楽曲がかかります。困りあてた朝の楽曲が、ABBAの「SOS」でした。苦悩に沈む職員の顔に、この曲がしだいに絵画を与えていきます。アメリカ人のユーモアを感じる場面でした。
そして、突然に自体は改善します。スピリットが正常に戻るのです。この理由は明確に描かれておらず、まるで奇跡のようです。「SOS」が神に通じたとでもいうのでしょうか。
流砂に埋もれる
スピリットとオポチュニティの電源の保証は90SOLでした。それを過ぎた後は、火星の状況によるというものです。しかし、彼らは90日を楽々と越えて、活動を続けていきました。太陽電池の上にたまった砂埃を、火星の砂あらしが定期的にきれいに取り払ってくれたからです。これも神がかっていますね。
オポチュニティはSOL445を越えて順調に火星の大地を走っていました。ところが、あるとき砂の中でタイヤが空転していることがわかります。全く進んでいなかったのです。さらには、深みに沈んでいくばかり。地球では、実際に砂の中にローバーを埋めて脱出のシミュレーションが行われます。
その結果を火星で試してみるも、事態は悪化。より砂に沈んでいきました。ところが、あるときふいにひょいとバックした拍子に、砂地から脱出してしまうのです。神がかった奇跡の連続です。人類の挑戦を神が手助けしているとしか思えないのです。
スピリットの任務終了
スピリットは右前の車輪が故障し、そのためにバックで歩みを進めていた。しかし、砂に埋没し岩に引っかかり動けなくなった。「スピリットを救え」は地球での大きなムーブメントになったが、2011年5月に、彼はその任務を終了する。何と7年にもわたる火星での活動であった。
「友が去るような悲しみ」と関係者はいいます。もはや相手がロボットである感覚はなく、その絆の強さに、スピリットとの別れの悲しみがいや増していくのです。
おやすみオポチュニティ
その後もオポチュニティは快調に探査を継続します。そして、「エンデバー」という巨大なクレーターを目指して走っていました。エンデバーでは火星で最も古い層の地質が分かるのではないかという期待がなされます。
雷に打たれ、宇宙線に吹かれ、冬の寒さをやりすごし、途中で隕石をハンティングしながら、オポチュニティはエンデバークレーターを目指します。しかし、彼女にも年季が入ってきて、アームが関節炎となり、出しっ放しにすることに。関連して前輪が故障し、さらには記憶を失っていき始めます。
もうまるで人間と同じなのです。異なるとすれば、彼女はその後も探査を続けたこと。そして、かつて火星に飲める中性の水があったことを発見します。それは火星の変化を地球の変化に応用できるかという大きな宿題を人類に残してくれました。
活動開始から14年が過ぎています。5000SOL(火星日5000日)の記念に未だ使えるカメラを使ってオポチュニティに自撮りをさせることを思いつきます。無意味な行為と反対もされますが、必死の説得で実現にむかいます。荒い画像の白黒の姿は、少し恥ずかしそうでありながら、凜とした姿でした。
5262SOL。活動開始から15年の月日が流れていました。ついにそれも終わる日が来ました。最後の目覚めソングは、エラ・フィッツジェラルドのやさしい歌声でした。人類とローバーの愛の関係を象徴するにふさわしい曲。人間とロボットが愛で結ばれた事実がそこにはありました。人々は心を込めて「おやすみオポチュニティ」と別れを告げます。私たちの心に忘れられない思い出を残して。
映画は、オポチュニティの孫である後継機が、新たに開発され、宇宙に打ち上げられる場面でおわります。単なる機械で終わらない継続性が示されます。スピリットとオポチュニティの関係者達も世代が変わっています。でも、全員が新しいローバーの打ち上げに歓喜し、笑顔でロケットの航跡を見つめるところで終わります。ずっと続いていく続いていって欲しい。そんな希望に満ちたエンディングでした。
ストーリーを追ったので、すこし冗長なブログになった感がありますね。でも、もう一度映画を見直しながらの執筆は楽しかったです。自分たちが作ったものに愛情をそそぐ私たちは不思議な生き物ですね。スピリットやオポチュニティはそんな人間に何の感情も持っていないかも知れませんが、人は物に愛情を感じざるをえないという、まさに愛すべき生物ではないでしょうか。そういう意味では人類愛をも感じた作品と言えるでしょう。ぜひ、アマプラで御覧ください。
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