「あきない世傅 金と銀 第5巻 転流編」髙田郁著読了しました。明るい筆致、軽快な大阪弁の中で、主人公 幸の商売の知恵に膝を打ちます。

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samon
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楽しみのシリーズももう5巻。終わりが惜しまれて仕様がありません。さて、今巻では、ある工夫を凝らされた帯が、忠臣蔵の歌舞伎で売り出されるクライマックスが白眉です。皆様も、髙田郁の世界へぜひお入りください。最終刊まで抜けられませんよ。

敵役

悪人のほとんど出てこないこのシリーズですが、敵役登場。呉服商「真澄屋」です。本巻は、この真澄屋に乗っ取られそうになった「桔梗屋」を見事救う章からのスタートです。

この真澄屋、その後も幸の知恵が評判となると、ことごとく真似をして、売り上げをさらっていくようなことをします。しかし、幸は「真澄屋でなく、真似屋ですね」と笑って済まし、全く動じません。幸の懐の深さを感じさせます。

真澄屋は、呉服商がひしめき合う、江戸日本橋に支店を出し、幸の「帯商」の工夫を真似しますが、それが全く通用せず、読者は溜飲下げます。

後半では、2年で真澄屋江戸店は売りに出されているとの噂も伝わってきます。江戸への出店を考えている幸にとって、このことは江戸進出の難しさを痛感させ、怖じ気づく気持ちも起こさせます。真澄屋は単なる憎たらしい敵役に終わらせない、作者の見事な物語展開に感心させられます。

夜のファッションショー

幸は過去に流行した「鯨帯」といういわゆる白と黒のリバーシブルの帯にヒントを得て、「五鈴帯」という帯を発売しようとします。この「五鈴帯」の発表のシーンが、本巻ハイライトであると思います。それは、「忠臣蔵」の芝居初日がはけた後の夜の帰り道で起こります。

道頓堀に架かる橋の上にだいだい色の光の列ができています。欄干にそってずらりと並ぶのはそろいの提灯。「五鈴屋」の文字がはっきりと読み取れます。提灯を手にした男たちが、橋の上に真ん中を空けて2列に並んでいるのです。

花道ににたその橋の上を、10人の娘たちが渡っていきます。

華やかに装い、帯を水木結びにした嬢さんたちがゆっくりと橋を渡り始めた。提灯の明かりが、娘たち一人一人の帯を丹念に照らし出す。(中略)まさにその時だった。緩く傾斜した橋の途中で、ひとりの娘がくるりと回って見せた。帯が翻り、鈴紋がはっきり見えた。ほかの娘たちも立ち止まり、銘々に帯に触れる仕草をする。

P222引用引用

橋の上をランウエイに見立てた帯のファッションショーなのです。幸の考えた他の仕掛けと相まって、五鈴屋の発売する「五鈴帯」は大阪の人々に強烈な印象を植え付けることに成功するのです。

また、これまで商売に何の役にもたたなかった旦那さんの智蔵の奔走が、この夜のファッションショーに結実しているのも泣けますね。このことで、幸と智蔵の絆はより強固なものとなるのです。これが、ある出来事の伏線となっているとは・・・。

samon
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さらに後半は、江戸出店の準備が進められる話が展開します。ここでも幸の商いの戦国武将たる知恵が発揮されてまことに心地よい。ところが最後の最後にとんでもないことが起こるところで、本巻は終わります。まさに止まらないジェットコースター小説となっています。どうぞ、皆様もこのジェットコースター小説の世界へぜひ乗り込んできてください。大オススメです。

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